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呆然と玄関を見ていた拓海を、遥都が手を引いてソファーに座らせた。

「ごめんね。会計にも後で言っておく。もう拓海に関わらせないようにするから」
「……うん」
「副会長はマスターキーを使ったんだと思う。鍵を変えさせるから、そしたら、新しいマスターキーは僕が預かってもいい?」
「いいけど、でも、勝手にそんなことしてもいいの?」
「こんなことがあったんだから、当然だよ」

隣に座った遥都が、今だに拓海の手を握りながら、少し怒ったように言った。

「副会長は、食堂でのことが気に入らなかったんだろうね。生徒会に楯突く生徒はいなかったから、余計に許せなかったのかもしれない」
「でも、急に元気がなくなってたけど、どうしてだろう」
「……うん、副会長の知り合いが、強姦されたことがあったらしいんだ。だから無理強いするのは嫌みたいなんだ」
「ええ? それにしては強引だったけど」
「やっぱり、何かされたの?」

スッと表情を無くした遥都に、拓海は慌てて首を振って否定した。

「違うよ。俺が遥都と変な関係なのかと勘ぐって、副会長に相手しろって言われただけ。遥都が馬鹿にされたみたいに感じて……」
「それで、僕を庇ってくれたんだね」
「……見てた?」
「うん。拓海が僕のために怒ってくれて嬉しかった。ありがとう」

遥都が嬉しそうに微笑んだ。拓海が好きな遥都の甘い笑顔だが、すぐにまた悲しげな表情になってしまった。

「でも、僕のために無茶はしないように。相手が副会長だったからまだ良かったけど、怖い相手だったら……。さっき拓海のことを聞いてびっくりしたんだ。それで急いで拓海に会いに来たらドアに鍵がかかってなくて、心配になって入ったら副会長に泣かされてるし」

拓海が帰ってきた時、部屋に人の気配があったため、昨日の今日ということもあり、すぐに逃げられるように鍵を掛けていなかったのだ。

「心配かけてごめん。俺は本当に大丈夫だから」

昨日のことは恐ろしかったけれど、過去の出来事として受け止められるようになった。それは、悠真のおかげなのだろう。

「……拓海?」
「ん、何でもない。病院までドライブもできたし、外泊したらご飯も美味しかったんだ。いい気分転換になったみたい。だから、本当に心配しないでくれよ」
「……無理。無事な拓海をハグしないと」

そう言って、遥都は長い腕で拓海を抱き締めた。

遥都の体温を感じるのは、凄く久しぶりのような気がする。拓海は、遥都の柔らかい亜麻色の髪を撫でた。

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