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「シャツを捲られただけじゃないんだろ。……体も嘗められたのか?」
「あっ、先輩……!」

拓海のお腹の辺りにあった悠真の手が、もぞもぞと動き始めた。
拓海は悠真の手を押さえて、服の中に侵入して来ようとするのを防ぐ。この状況で心臓が破裂しそうなくらいにパニックになっているのに、それ以上のことをされたらショック死してしまうかもしれない。

「どうなんだ、拓海」
「嘗められてません!」
「じゃあ、触られたのか」
「うわっ……やっ、先輩!」

拓海の耳に唇を寄せたまま、悠真の二つの手が服の上から拓海の胴体を撫で回した。それを止めようと、拓海は動き回る悠真の手を掴もうとする。

「……拓海、俺のことが嫌いなのか?」

必死に抵抗する拓海に、悠真が後ろから覗き込むようにしながら尋ねた。

その質問はズルいと思う。悠真は拓海のためにやってくれている。だからといって、それを拒否するのは悠真自身を拒否することとは違う。それなのに、拓海は拒絶の言葉を告げることが出来なくなってしまう。

「ゆ、悠真先輩」

どうしていいかわからなくなって、覗き込んでくる悠真を振り返った。
悠真の黒い瞳が、落とした灯りの僅かな光を受けて煌めいている。それがとても綺麗だった。
引き込まれそうなほど綺麗な瞳が、拓海を見つめているのだ。

嫌いじゃない。だからこそ、悠真の体温に包まれながらその手で触られて、このままこれを許容してしまっていたらきっと駄目だ。このままじゃいけないと、拓海は唐突に思った。

「……拓海」

拓海と視線が合うと、わさわさと動いていた悠真の手が止まった。

「泣くほど嫌だったか?」
「あ……、先輩」
「悪い、やりすぎたな。けど、記憶の上書きは確実だろ?」

こっちの方がトラウマになりそうだったが、確かに昼間の出来事の記憶はすっ飛びそうな勢いなので、拓海は頷いた。

すると、再度悪かったと謝りながら、悠真の唇が拓海の目尻に寄せられた。

「んっ」

今のは何だったのか、驚きと戸惑いで、拓海の目に滲んでいた涙はあっという間に引っ込んでしまった。

「じゃあ寝るか」
「えっ?」

さらに、悠真は何でもない顔でベッドの中に入ってくる。一緒に寝るつもりなのだろうか。
そんな悠真の行動に拓海は再びパニックになった。

「先輩仕事……」
「もういい。寝るぞ」
「でも、先輩……うわっ!」

拓海を巻き込んで、悠真はベッドに横になってしまった。一緒にベッドに倒れた拓海のウエストには、悠真の腕が巻き付いている。

「拓海の部屋しか用意してないから、一緒に眠らせてくれ」

そう言われてしまえば、断れるはずがない。
悠真がここにいることは、きっと公にしていないからなのだろう。そうまでして、悠真は心配して拓海のそばにいてくれるのだ。

目蓋を閉じていてもなお、端正な顔が目の前にある。それに、一向に離れることのない悠真の体温に、先ほどのショック療法が忘れられなくなってしまいそうだ。
拓海は、ベッドから降りてソファーで眠った方がましだろうかと考えた。
しかし、身動ぎした拓海に、さらに悠真の腕が絡んでくる。

「動くと落ちるぞ。……お前、抱き枕にちょうどいいな。ゆっくり眠れそうだ。おやすみ」
「……おやすみなさい」

忙しい悠真がゆっくり眠れるのなら、一晩くらい我慢しよう。そう思った拓海は何もかも諦めて、リモコンで電気を消してから目を閉じた。

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