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ゆっくり背中を撫でられているうちに落ち着いてきた拓海は、自分が白シャツ姿の悠真にしがみ付いていることに気付いた。
悠真の匂いと、体温を身近に感じて、急激に恥ずかしさが募る。

「……ご、ごめんなさい!」
「いや。夢でも見ていたのか」
「はい。多分、すごく嫌な夢です」

怖い夢だった。
悠真を探していたような気がするけれど、きっと眠る直前まで悠真の顔をみていたせいなのかもしれない。
悠真と夕食を食べた後、少ししたら拓海は眠ってしまったのだ。

悠真の向こうに見えるテーブルには、開いたままのパソコンが見える。今まで仕事をしていたのだろう。
そんな横で眠りこけていたなんて、申し訳なさすぎる。

「お仕事の邪魔をしてすみませんでした」
「気にするな。俺が居座ってるだけだから」

そう言った悠真を拓海はぼんやりと見上げた。
制服のネクタイもなく、ボタンも外したシャツ姿の悠真だが、そんな着くずした姿から、普段は閉じ込められていた色気みたいなものが溢れているように見える。

「拓海」
「は、はいっ」
「昼間、あいつらに何された?」
「……あいつらって、えーっと、キツネの……?」
「そうだ。平気そうな素振りをしているが、深層心理ではそうじゃないみたいだな。どうだ、俺のことは嫌いか?」
「えっ、そんなはずありませんけど」

藪から棒に何を言いだすのか、拓海は戸惑いながら悠真の質問に答えた。

「そうか、それは良かった。なら、好きか?」
「はい。尊敬してます」
「なら、俺に話してみろ。話していくうちに自分なりに消化して楽になることもあるからな」
「……わかりました。えっと、戸谷君が殴られて、それからどこかの部屋に連れ込まれて……」

ベッドの上で話しはじめると、悠真も拓海のすぐ隣に腰をかけた。悠真の気配をすぐ近くに感じて、なんとなく勇気が出た拓海は話を続けた。

「……それで、耳を……」
「耳を?」
「えっと、耳を嘗められました」
「へえ。それから?」
「……それから、シャツを捲られて……。あっ、せ、先輩?」

悠真が、背中から拓海を抱き竦めてきた。拓海のお腹の辺りで、悠真の腕がしっかりと組まれる。
驚いて振り返ろうとすると、拓海の耳に濡れた感触がした。あろうことか、悠真が拓海の耳を嘗めたのだ。

「う、あっ、先輩……!?」
「記憶の上書きってやつだ。見知らぬ奴らにやられたってより、尊敬する俺にならいいだろ」
「い、いいだろって、ちょ、先輩!」

今度はチュッと音を立てて耳を吸われる。
ゾクッとして、拓海の体が震えた。得体の知れない感覚だけど、恐怖ではない。
けれど、この状況は拓海に耐えられるものではなかった。

「どうした、嫌じゃないだろ?」
「嫌じゃないですけど、でも……!」
「治療だと思えばいい」
「そんなっ」
「で、シャツを捲られてどうしたんだ?」

耳元で言われたせいで、熱い吐息が拓海の耳にかかる。
びくんと震える拓海だけれど、悠真の腕は逃がしてはくれなかった。

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