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ノックの音と共に、平木が顔を出した。

「江利川君、並木君の診察が終わったようだよ」
「わかった、ありがとう。それじゃあ、俺は帰るな」
「並木も来ていたのか」

慌てたように立ち上がる江利川に、悠真が声をかけると、江利川の表情は少し曇った。

「俺がここに来るついでに連れてきたんだ。まだ特定の人達としか駄目みたいで……」
「そうか」
「んじゃ、またな。藤沢君もありがとう」
「僕は江利川君達を送って行くよ」

平木は買ってきたばかりの飲み物を悠真に渡すと、江利川と連れ立って部屋から出て行った。

悠真がグラスにジュースをあけて、それを拓海に手渡す。それを受け取りながら、拓海は先程の会話を反芻していた。

並木という人物は、実際に何らかの被害に遭って、今でもカウンセリングを受けている。きっと、それは学園で。
強姦と言う言葉が、拓海の脳裏を過る。
未遂だった拓海でも、あれだけ怖かったのだから、限られた人としか会えなくなってしまうというのは、どんなに恐ろしかったことだろう。
グラスを握った手が、微かに震えてしまったので、拓海は慌てて両手で持ち直した。

「大丈夫か?」
「あ、はい。平気です」

じっと見つめてくる悠真の視線をグラスの中を見ながら耐えた。
何でも見透かされてしまいそうだ。イケメンの眼力には、絶対に慣れることはできない。

「夕食を用意してもらったんだが、食べられそうか?」
「はい……!」

夕食と聞いて、拓海は顔を上げて返事をする。
悠真に気を遣わせてしまったようだし、食事くらいは楽しく食べたい。これだけ立派な病院なので、食事も期待出来そうだと思った。


◇◇◇


気が付くと、拓海はいつの間にか学園の教室にいた。

一緒にいたはずの悠真がいない。探しに行こうとしてドアを開けると、目の前に、キツネのお面を被った男が立っていた。
驚いて後退ろうとした拓海を、背後から誰かが抱き締めてくる。

「っ……!」

振り返ると、そこにいたのは、ウサギのお面の男だった。
耳障りな笑い声をたてるウサギ男に、拓海の腕と足は紐でぐるぐる巻きにされて転がされる。そこへキツネ男が馬乗りになり、制服をビリビリに破かれた。

「や、やだっ……!」

キツネとウサギの笑い声がこだまして、露になった拓海の体にいくつもの手が伸びてくる。

「やだっ、ゆ、悠真先輩……!」

いくら声を張り上げようとしても、笑い声が邪魔をしてくる。それでも、拓海は必死になって声を出していた。


「……拓海。起きろ、拓海。もう大丈夫だから」

はっ、と目を開けると、薄明かりの中で、悠真が拓海を覗き込んでいた。
目の前には悠真がいて、助けに来てくれたという安堵感から、拓海は悠真にしがみ付いた。

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