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「聞いたぜ。藤沢君が友達のために頑張ってるって。しっかりしてんだな。見た目は頼りなげな感じなのに」
「えっ、頼りないですか?」
「あー…、いや、何て言うか、綿菓子っぽい、かな?」

訂正後の方が、余計に変な印象になっている気がして、拓海は複雑な心境になる。甘くてすぐに消えるような菓子と並べられるのは、一男子としては勘弁願いたい。

微妙な表情を浮かべる拓海を見て、江利川が笑った。

「悪い。充分頼りがいがあるよ。平木から聞いて、会ってみたいって思ったんだ。こうして実際に会ってみると、平木達が手を差し伸べたくなる気持ちが分かるよ」

それってつまり、手を差し伸べずにはいられないくらいに、頼りないってことではないのだろうか。
確かに助けられてばかりなので、自分のためにも、その辺りを深く考えて墓穴を掘るような真似はしない方がいいだろう。

「俺が学園にいた時に起こった事件の話は、もう聞いてるか?」

少し改まった口調で江利川が尋ねてきた。拓海は黙ったまま頷く。

「俺が強姦魔に仕立てあげられると、藤沢君みたいにさ、俺なんかを信じて頑張って無実を証明してくれた奴らもいたんだ。でも、転校してからろくに会ってないんだよな。そいつらに礼しなきゃなんないんだけど、どうも、風紀の奴らに会いづらくて」

そう言った江利川が、ふと遠くを眺めるような眼差しになった。その表情が悲しげに見えて、拓海まで胸が痛くなる。

「でも、江利川さんが無実だったって、皆さんもご存知なんですよね?」
「ああ。けど、無実どうこうの前に、俺は風紀の副だったからな。そんなデマが流された自分が許せなかったんだ。それに……河峰さんの信頼を失ってしまったから、それが一番怖かったんだ」

江利川の表情が、僅かに歪んだ。
もしかしたら、江利川は河峰に対して特別な感情を抱いていたのではないだろうか。そうだったなら、辛過ぎると拓海は思った。
おまけに、今は河峰が好意を抱いている和葉が副委員長になっている。きっと江利川もそのことを知っているはずだ。風紀に近づきたくない気持ちもわかるような気がする。

「藤沢君がそんな顔する必要はないよ。転校して新しい友達もできれば、価値観も影響されてきたみたいでさ。なーんか楽しいんだよな、今の学校。だから、腹据えて、あいつらに礼をしてけじめをつけたいって思えるようになったんだ。……藤沢君は案外顔に出て可愛いな」

からかうように言う江利川だが、きっと拓海を気遣って明るい態度を取ってくれているのだろう。

「江利川さんのその綺麗な笑顔を見れば、学園のご友人方も喜ぶと思います。俺もまた先輩の笑顔が見たい……」

です、と言い終える前に、バサバサと何かが落ちる音がした。
音のした方を見ると、少し驚いたような表情の悠真と目が合って、拓海も驚く。悠真のこんな表情は、貴重な気がする。

「……悠真先輩?」

落ちている書類を拾おうとしたが、すぐに普段通りに戻った悠真に制される。
自ら書類を拾った悠真は、何事もなかったようにキーボードを叩き始めた。その物凄い早さに拓海は感心させられる。

「藤沢君て、タラシ……?」
「ええっ! たらしですか!?」

とんでもないことを言われてしまい、江利川を振り向いた。若干視線を彷徨わせながら、頬と耳を赤くしている江利川を見て、拓海は自分の取った言動に原因があると、ようやく思い当たる。

「す、すみません! 先輩に失礼なことを言ってしまって。でも、本当に綺麗だと思ったんです」
「うん、大丈夫、分かってる、藤沢君が素だって」

だから余計に……、と江利川は小声で続ける。
自分は綿菓子と並べられて複雑な気分になっていたのだから、江利川に綺麗だとは言わない方が良かったのかもしれない。拓海は申し訳ない気持ちになっていた。

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