44拓海達がいる部屋のドアを誰かが叩いた。
ここを訪れるのは、病院の関係者くらいだろうけれど、もしかしたら違うのかもしれない。今日一日ですっかり疑心暗鬼になった拓海は、不安になって悠真を見た。
「大丈夫だ。平木が来たんだろう」
拓海を安心させるように言うと、悠真はドアを開けた。
「やあ。すまないね、中瀬会長」
「ほら、さっさと入れ」
悠真の言っていた通り、ドアの向こうにいたのは平木だった。
悠真に促された平木が室内に入ってくるが、彼の後ろからは、拓海が見たことのない人物も一緒に入ってきた。歳は自分達と変わらないくらいのその人は、悠真と知り合いだったようで、気さくに話しかけている。
どこにでもいるような普通の青年に見えたため、拓海はすぐに親近感がわいた。しかし、悠真に見せた笑顔がとても綺麗だったので、それは一気に拡散する。悠真や平木のように存在が濃い二人と一緒にいても、引けを取らないかもしれない。
「藤沢君! 君が無事でよかった……!」
悠真達を見ていた拓海は、飛び付かんばかりに傍に来た平木に驚いて、体を反らしながら身を引いてしまった。
「僕の部屋から出た直後に襲われたと聞いて、気が気ではなかったんだ。ああ、藤沢君の操が無事で本当によかった」
言いながら更に近付いてくる平木に、拓海は一歩後退る。何というか、迫力が怖い。
「平木、落ち着け」
見兼ねた悠真が、平木から引き離した拓海をソファーに座らせた。拓海の重みで、柔らかいソファーが沈む。
「もしかして、怯えさせてしまったのかな」
「お前みたいな胡散臭い奴が近づけば、誰でも怯えるだろうが。さっさと帰れ」
「酷いな、中瀬会長。せっかく江利川君を連れて来たのだから、労ってくれたまえよ」
「外出届けでチャラだな」
江利川と聞いて、拓海が顔を上げると、苦笑いしていた人と目が合った。
江利川とは、以前、風紀の副委員長だった人だ。彼がそうだったなら、どうしてここにいるのだろう。内心首を傾げながら、拓海は三人のやり取りを見守る。
「江利川も座ってろ。平木は飲み物でも買ってきてくれないか。俺は出歩けないからな」
「ああ。かまわないよ」
先輩に行かせるわけにはいかないと思い、拓海が代わりに行こうとしたが、それを制して平木は部屋から出て行ってしまった。
「ここ、いいかな?」
「はい」
江利川が拓海に確認を取ると、向かいのソファーに座った。
悠真はというと、パイプ椅子を引っ張り出して、少し離れた所で持参したノートパソコンを開いている。ここは病院の施設内でも、医療機器がない場所だからいいのか、などと思いながらも、初対面の江利川と向かい合わせになって、拓海は少し戸惑った。
「外部入学したならはじめましてだな。俺は江利川。俺も最近まで桐條学園に通ってたんだ。もう、あそこには慣れたか?」
「俺は藤沢拓海です。学園は何だか色々ありすぎて、戸惑ってばかりですね。正直、まだ慣れない部分もあります」
「だよなぁ。やっぱあそこは特殊だからな。外に出てよく分かったよ、俺も」
そう言って明るく綺麗な笑顔を見せる江利川は、学園でのことはもう吹っ切れているようにも見えた。
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