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悠真の指がゆっくりと離れていく。
それを何となく目で追ってしまってから、拓海は音の発生源となっている自分の携帯を取り出した。

見れば平木からのメールだった。
平木が外出の申請を行ってくれることになっていたが、それでは許可が下りるのが明日になってしまうので、すぐに病院に行けるようになったことを伝えていたのだ。それに対する返信だったが、拓海を案じて無事を喜ぶ文面の後、平木も拓海を追いかけて学園から出てしまったらしい。
申請が間に合わなかったので、後のフォローを悠真にお願いしたいと書かれてある。

それを悠真に話すと、呆れた表情を浮かべながら頷いていたので、平木に大丈夫そうだと返信した。
それにしても、どうして拓海が悠真と一緒にいると分かったのだろうか。その辺りが、平木の凄いところなのかもしれない。

メールを送信した後、忙しい悠真とようやく二人になれたので、拓海は聞きたかったことを尋ねることにした。

「悠真先輩、オリエンテーリングで蓮とペアだった生徒から、何か話は聞けたんですか?」
「ああ。拓海から聞いた通り、篠宮君は薬物を摂取していたが、それは篠宮君とペアだった生徒からもらった飲み物に含まれていたようなんだ」
「そんな、本当ですか!?」
「だが、彼も篠宮君と同じ状態だった。飲む量が少なかったために軽度ですんでいたが。その飲み物は、誰かに貰ったと言っていたな」
「貰った?」
「そうだ。彼は中学から陸上部で、同じ飲み物をよくファンの生徒達から差し入れされていたらしい。今回もそう思っていたようだ」
「そうだったんですか……。差し入れしてきた生徒の顔は覚えていたんでしょうか?」
「いいや、一々覚えていないそうだ。ファンや親衛隊だけじゃなく、渡してきたのが誰とも分からないような物は口にしてはならないと、わざわざ教えてやらないと駄目なのか」

そう言って悠真は溜息をついた。
以前の拓海だって、自分と同じ生徒から貰ったものに、クスリが入っているとは思わないだろう。しかし、この学園は特殊だと段々分かってきた。悠真が言うように、危機感を持ったほうがいいのだろう。

「先輩、今回蓮と水島君を陥れようとしている人と、蓮を襲わせた人は、何か関係があると思いますか?」
「恐らくそうだろうな」
「やっぱり、先輩もそう思いますか。それにしても、どうして蓮なんだろう……」

拓海の言葉に、悠真は僅かに目を細めた。一瞬の変化だったが、拓海はそんな悠真に気が付いた。
この一連の事件に、悠真自身が関係しているのかもしれない。蓮の噂には、悠真の名前が必ず出てくるのだから、悠真自身もそれを分かっているのだろう。
そう考えると、今回水島は巻き込まれただけだったのかもしれない。

以前、副会長の倉林は、蓮が悠真の隣の部屋だったことと、悠真に好意をよせていると言って、蓮に嫌がらせをしようとしていた。和葉のために。
しかし、悠真の隣の部屋だとか、そんな理由で襲わせたり罪を負わせようとまでするのはやり過ぎだろう。拓海には、もっと他の理由があるような気がしていた。

常磐が蓮の噂について調べてくれると言っていたが、何か分かったことはあるのだろうか。
遥都にも連絡したいが、心配させないためにも、病院から帰ってからの方がいいだろう。

車窓から流れる景色を眺めながら、拓海は重たい息を吐いた。

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