41後方にいる松平を気にして、拓海は急いで車に乗り込んだ。声を出さなかった自分を褒めたい。
スモークフィルムが貼られているため、少し離れた場所にいる松平から悠真の姿は見えないだろうけど、拓海は気が気ではなかった。松平の様子を窺っていた拓海は、車が出発して、ようやく悠真に向き直ることができた。
「悠真先輩、脅かさないでくださいよ」
「すまない。だが、こうでもしないと拓海に会えなかったからな」
早く会いたかったと続けられて、それはどういう意味だろうと考えた拓海は、悠真が制服のシャツしか着ていないことに気が付いた。
津幡は、この車に悠真が乗っていることを知っていたのだろう。持っているように言われていたブレザーを悠真に差し出した。
「ブレザーのことですか? これ、やっぱり先輩のブレザーだったんですね」
「俺のものだとわかったのか?」
「はい。先輩の匂いがしたから……」
そう答えて、何だか変態くさい返答だったかもしれないと思ったが、悠真は気にしていないようで、拓海の髪をくしゃりと撫でた。
「本当は、俺自身が駆け付けたかったんだ」
「先輩……。ありがとうございます。このブレザーだけでも嬉しかったです。あっ、クリーニングもしてないんですけど」
「そのままでいいから気にするな」
悠真のブレザーだけでも、あの時の拓海は気持ちを落ち着かせることができた。忙しい悠真が、拓海のことを気に掛けてくれるその心遣いが、とても嬉しかった。
「先輩に病院まで送ってもらえるのも嬉しいです」
「やっと体が空いたからな。言っておくが、俺はブレザーじゃなくて、早く拓海の無事な姿が見たかったんだ。それに、カウンセリングを受けると聞いたから」
そう言った悠真が、首を傾けながら拓海に視線を向けてくる。その視線に、拓海を案じているような、心配げな様子を見つけて、ずきんと心臓が痛んだ拓海は、あわててそれを否定した。
「ち、違うんですっ。カウンセリングが目的じゃなくて、病院に行けば、蓮と水島君が犯人だと言っている人たちに会えるかと思ったんです。俺は大丈夫ですよ。さっきも風紀室で平気で眠りこけてたくらいなんですから」
「そうか」
必死に言い募る拓海に、悠真は返事をしながらも心配そうな瞳は変わらない。
あまり言い過ぎるのも、無理しているように思われるかもしれないと思い、拓海はどうしたら悠真が安心するのか思案に暮れてしまった。
悠真が、黙り込んだ拓海の頭を再び撫でる。そのまま髪を滑って降りてきた人差し指が、拓海の目の下をそっと撫でた。その手つきが余りにも優しくて、拓海の心臓が煩いくらいに鳴り始める。
泣いたせいで、目許が赤くなっていたのだろうか。きっとそのせいで、悠真が心配しているんだろう。でも、間近にある悠真の顔が見られなくて、拓海の視線は下の方を向きながら、金縛りにあったように一ミリも動けなくなってしまった。
「せ、先輩……」
この状況をどうにかしたくて、拓海が絞りだした声は、携帯から聞こえてきたメロディーと重なった。
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