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拓海は松平と共に寮へと戻っていた。病院へ行くのに準備をするためだ。
学園を抜け出して病院へ行けるのはいいのだが、拓海はカウンセリングを受けるほどでもないと思っていた。

「先輩、病院に行けるのは有難いんですが、カウンセリングは必要ないんです」
「今は大丈夫でも、後からショックが出るっつーか、意外とトラウマになったりするもんだぞ。まあ、そうなったら、その時に診てもらってもいいかもな。今手続きしてるだろうから、簡単な問診で済ませるように後でこっそり連絡しとくぜ、拓海」
「ありがとうございます」

松平にすっかり名前で呼ばれるようになっていた。
最初は雰囲気の怖いちょっとやな感じな人だと思っていたが、あれは風紀としての立場もあったのだろう。今は気さくでいい先輩だった。

「……にしてもなぁ、委員長があんなになるのも珍しいぜ」
「河峰先輩? そうなんですか?」
「なんてぇか、愛玩動物と飼い主みたいな」
「……それって俺と河峰先輩ですか? 山岸先輩と河峰先輩のことじゃないですよね」
「ああ? いや、あー、和葉の時は、まあそうなんだけどよ。普段は被害に遭った生徒に対して、委員長は一歩距離を置いて接してんだよ。立場的にもな」
「そうなんですか」

河峰は、なんだかすごく真面目な人のようだから、仕事の時もストイックな姿勢で臨んでいるのだろう。
さっき拓海の頭を撫でていたのは、泣きながら縋りついた取り乱しっぷりに、河峰が憐憫を感じていたからに違いない。
思い返すと恥ずかしいが、あの時は必死だったのだ。


それから、用意した荷物を持って、校舎から少し離れた所にある駐車場まで来ると、既に津幡が立っていた。彼は拓海を姫抱っこした先輩だ。優しげな風貌なのに、顔色一つ変えずに拓海を抱き上げた津幡は、やはり他の生徒とは違うのだろう。

さっき風紀室で、拓海の頭に掛けてくれたブレザーを渡そうとした所、ずっと持っているように言われたため、今も拓海の手の中にあった。津幡はしっかりブレザーを着ている。拓海が持っているのは、思った通り悠真のブレザーなのだろうけど、どうして拓海に持たせているのか不思議だった。

「準備は出来ましたか?」
「はい。お待たせしました」
「ああ、ちょうど迎えの車が来たみたいですね」

駐車場に入って来たのは、国産の高級車だった。
何故わざわざ高級車を用意してくれたのだろうかと疑問に思いつつ、拓海はあの車に見覚えがあるような気がした。高い車は似たり寄ったりなものなのかもしれない。

「車内に念のため護衛の方が乗車しています」
「そうなんですか! 何から何までありがとうございます」
「藤沢君、お気を付けて」
「拓海、頑張ってこいよ!」
「はい、行ってきます」

二人に挨拶した拓海は、少し離れた所に停車している車まで歩いて行く。運転手がドアを開けるために待ち構えているのを見て、小市民な拓海は緊張していた。

護衛の人と気まずくなったら嫌だな、と、少し人見知りな自分を心配しつつ、ドアの前に立った拓海は口を開けて驚いた。
運転手が開けてくれたドアの向こうに、シートに凭れている悠真の姿があったからだ。拓海を見て笑う綺麗な顔を見ながら、上げそうになった声を飲み込んだ。

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