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河峰が数人の風紀委員と共に、風紀室に戻って来た。ソファーに座っている拓海を見て、河峰は真っ先に傍に近付いて来る。
拓海が松平に視線を向けると、彼は安心させるように大きく頷いてみせた。

松平が手伝うと言ってくれたので、拓海は被害に遭ったと言っている生徒に会いたいと、さっきダメ元で頼んでみたのだ。
すると松平は、彼らがいる病院に行けば、もしかしたら会うチャンスがあるかもしれないと言ってくれた。それについては任せてくれとのことだったので、拓海は松平にお任せすることにしたのだった。

「目が覚めたんだな」
「はい。すみません、ベッドをお借りしてしまいました」
「それは構わない。今日のことなんだが、話しは出来そうか?」
「委員長、だいたい俺が聞きました。やっぱり犯人はウサギ野郎だったらしいっす」
「ウサギか……」

河峰は眉間に皺を寄せて、厳しい表情になる。
松平から聞いたが、ウサギやキツネのお面を被った生徒達は、以前から学園生を脅したり、時には強姦することもあったらしい。正体も分からず、やり方も巧妙で、なかなか捕まえることが出来ないと言っていた。

「ここには外部から入学したばっかりで免疫もなかったらしくって、相当ショックだったみたいっすよ。さっきも苦しそうに涙ぐんでましたから」
「そうか……」

河峰の方が辛そうな表情になってしまったので、拓海は思わずうつむいた。
松平の言う通り、確かに苦しくて涙ぐんでいたが、その原因はマシュマロだ。

気まずそうにうつむく拓海を見た河峰は、そっと拓海の肩に手を乗せてくる。

「辛かったな。もう忘れてしまって構わない。とは言っても、なかなか難しいだろうが……」
「しばらくは、恐がって眠れないかもしれないっすね」

追い討ちをかけるように松平が言う。
俺ってさっきまで、余所のベッドで図々しく眠っていましたよね、とも言えず、ますます拓海は肩身を狭くした。
するとどうしてか、河峰が拓海の頭を撫で始めた。
大きな手で優しく触れられて、居たたまれなくなった拓海は、助けを求めるように松平を見たが、彼は彼で驚いたように河峰と拓海を見比べている。尊敬する河峰が、拓海の頭を撫でているのだから無理もないのかもしれない。
諦めた拓海は、河峰にされるがままになっていた。

「そうだな、念のためにカウンセリングを受けてみるか?」
「カ、カウンセリングですか?」
「こちらから話はつけておこう。嫌なことは話さなくてもそれで構わない。カウンセラーを呼んでもいいんだが、君が病院に出向いて、ここから一晩でも離れてみた方が、気持ちを落ち着かせるためにはいいかもしれない」
「そうですね」

河峰の話に相槌を打ったのは、河峰の後ろにいた生徒だった。彼はさっき拓海を抱き上げてくれた人だ。

「ショックで気絶してしまったくらいですから、その方がいいでしょう。僕が手続きや送迎の手配をします」
「ああ、頼んだ。君はそれでも大丈夫か?」
「……はい。よろしくお願いします」

俺ってそんな繊細なキャラになってたんだ、とか、河峰先輩ってもしかして騙されやすいのかな、とか、色々な思いを飲み込んで、拓海は頷いて返事をした。

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