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「先輩、あの、江利川さんて方は……」
「和葉の前に副委員長だった人だ」

それは今日、拓海が平木から聞いた人のことなのだろう。前任の副委員長は、濡れ衣を着せられて学校を辞めたと言っていた。
さっきの口振りから、松平は江利川の無実を信じていたに違いない。

「水島のことで必死になってるお前を見てると、委員長の目を覚まさせてくれんじゃねえかって考えちまってよ。……あ、言っとくが委員長を悪く言ってんじゃねえんだからな!」

焦ったように言う松平に、拓海は頷いて返した。
松平が河峰に忠実なくらい心酔していることなど、今日初めて会った拓海にだってよくわかった。

「何てぇか、和葉の周りはいつだって綺麗なんだ。委員長はそれに目を眩まされてるように思えてならくてよ。でも、和葉のあれは、俺には違和感っつーか、胡散臭く感じんだよな」
「だから、さっきのやり取りを俺に見せたんですか?」
「ああ。お前がどう感じるか知りたかった……、とは言っても、お前も水島は無実だっつってたんだから、和葉の行動は願ったり叶ったりなんだろうけどな」
「……いいえ。俺は、山岸先輩には頼りたくないです。自分なりに水島君の無実を証明したいと思ってます」

と言うか、和葉に助けられたら、水島が和葉にいいようにされてしまう気がする。和葉は水島を前から気に掛けていたようだし、さっきも蓮のことを二の次にしていた様子から、余計にそんなふうに思わせた。

「そうか、お前も俺と同じなんだな」
「……でも、先輩が期待するようなことは出来ません」

拓海に、あの河峰を変えることなど到底出来るようには思えない。

「ああ、お前はそのまんまでいりゃあ充分だ」
「そのまま、ですか?」
「そうだ。直接委員長に言えない俺が悪いんだから、お前が気に病む必要はねえよ。あんなに和葉を可愛がってる委員長に、俺が何を言っても無駄だって諦めもあったんだ。それに、俺が委員長に嫌われちまうのが嫌でな。……あー、情けねぇ。後輩に何愚痴ってんだ俺は……」

そう言って更に頭をぐしゃぐしゃに掻き乱すから、松平の頭は所々跳ねてしまっていた。

「マジ悪かったな。嫌いなもん食わせられた上に、愚痴聞かされたんじゃな。お前といると、何でも喋っちまうよ。そんななりで、しっかり意見は言えるし。あ、マシュマロは拒否んないで食ってたけどな」
「それは先輩が喋るなって言ったからじゃないですか」
「おお、そうだったな。悪い悪い」

ぐしゃぐしゃの頭のまま松平が笑うと、強面だった顔つきが柔らかくなった。
イケメンばかりに出会って食傷ぎみな拓海にとっては、松平みたいなタイプは逆に親近感がわいてしまう。
そんな松平の笑顔を見て、拓海も一緒になって笑みを浮かべた。

「お前いいよ。最初は殊勝で生意気なガキかと思ってたけど、違ったな。お前が水島が犯人じゃねえって言うなら、そうなのかもしれねぇ。俺もしっかり調べてみるわ。手伝えることは限られてるが、何かあれば言えよ」
「先輩……。ありがとうございます」

松平の言葉は、拓海にとって充分励みになった。

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