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誰もいなくなったので大丈夫だろうと思い、拓海は松平に向かって口を開いた。

「……み、水が欲しい、です」
「ああ? ──ッおま、何泣いてんだよ!」

面倒そうに返事をした松平が、涙目になっていた拓海を見て、ぎょっとしたように目を見開いた。

「おい、大丈夫か?」
「……マ、マシュマロが、……水を」

寝起きに甘いマシュマロを詰め込まれた拓海は、とにかく苦しかった。原因である松平に、出来れば飲み物をもらいたくて、必死に訴える。
しかし、松平は拓海をガン見しながら固まってしまった。


「マシュマロ嫌いとか……」

ありえねぇ、とショックを受けたようにソファーに沈む松平を横目に、拓海はスポーツドリンクを一気飲みしていた。

拓海が寝かされていたのは、風紀室の中にある一室だったようだ。広いと思っていた風紀室は、奥には更に三つの個室があったのだ。

誰もいなくなった風紀室のソファーに、松平と向かい合って座っている。拓海は、スポーツドリンクのペットボトル片手に、もう片方には、さっき頭に掛けてもらっていた制服のブレザーを丁寧に畳んで抱えていた。

「先輩はお好きなんですか?」
「ンなわけあるか! これは俺んじゃねえし、和葉用のおやつだ。お前、その見た目でマシュマロ嫌いとか詐欺じゃねえの」

好き嫌いに見た目は関係ないよなと思いつつ、もうマシュマロはいいので、拓海は気になっていたことを松平に尋ねた。

「先輩、戸谷君は大丈夫ですか?」
「ああ、あいつは骨も内臓も異常なしだとよ。念のため医務室に寝かせてる」
「そうですか……」

目の前で人が殴られていたのはショックだった。骨や内臓に異常はなくても、理不尽な暴力を受けた戸谷は痛かったはずだ。

「戸谷も鍛えているから、多少やられても平気だろう」

慰めるように言った松平に、拓海は黙って頷いた。

「……あのよ、お前さっきの見てどう思った?」
「さっきのって、水島君たちのやり取りですか?」
「そうだ」

拓海が質問すると、松平は顔を顰めながら返事をした。

「えっと、風紀の副委員長が無罪を訴えてくれるなら、心強いなと……」
「あいつはいい子ちゃんだっただろ?」
「はい」

和葉に対しては疑念はあるものの、拓海はそれは口にせずに首肯する。

「だが、あいつが来てから風紀がおかしいんだ。いい子ちゃんがいるなら、普通は良くなるもんだろ? それなのに」

そう言いながら、松平はぐしゃぐしゃと自分の頭を抱えるようにしながら、髪を掻き乱す。

「あいつ用のおやつは常備だし、呑気にフラフラしやがるから風紀の威厳はガタ落ちだ。だから会長の親衛隊なんぞがしゃしゃり出てきやがるんだ。それに、三枝があいつの仕事してんのに、委員長はどうして……。江利川さんがいればこうはならなかった。あいつが守られてんのに、どうして江利川さんは守られなかったんだよ……!」
「……先輩」
「わりィ」

松平は頭を押さえたまま、力なく息を吐き出した。

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