36

「──おい、起きろ」

徐々に覚醒した拓海は、自分が柔らかな布団に寝かされているのがわかった。
誰かに肩を揺り動かされて静かに目を開けると、目の前には何故か松平の顔があった。

「わっ……ッんぷ」

驚いて声をあげかけた拓海の口の中に、何かが放り込まれる。甘い味が口の中に広がった。
松平の手にはマシュマロの袋があるから、それを入れられたらしい。

悠真の親衛隊なのか、風紀委員なのかわからない生徒に抱きかかえられたのは覚えている。それから、いつの間にか眠っていたらしい。
見知らぬ場所に寝かされていたけれど、松平がいるから風紀委員会に関連のある場所なのだろう。

「いいか、絶対にしゃべるなよ」

小声でそう言う松平に、拓海は頷いてから、上半身を起こした。着ていたカーディガンのボタンが、しっかりと留められている。
不意に、先ほどの恐怖が甦りそうになった。思わず身震いしながら両腕を擦ると、マシュマロが唇に押し付けられた。
見上げると、眉間に皺を寄せた松平が、無言でマシュマロを摘んでいる。

「……」

食べろということらしい。
押し付けられていたマシュマロを口に入れると、また次のマシュマロが口元に寄せられた。

何がしたいのだろう……。不思議に思いながら運ばれるだけ食べていると、満足したのか松平はマシュマロを摘むのを止めた。それから、ジェスチャーで拓海に立つように促してくる。ベッドから降りた拓海が、揃えて置かれていた靴を履くと、今度は松平の傍に来るように手招きされた。

部屋のドアに張りついた松平が、静かにゆっくりとドアノブを回して、少しだけ隙間を開ける。すると、ドアの向こうから、微かに話し声が聞こえてきた。
松平に手を引かれて更にドアに近づくと、よりはっきりと話し声が聞こえるようになる。

「ぼくも一緒にいるから安心してね」

聞き覚えのある声だ。甘く少し高めのこの声は、和葉のものに違いない。

「レオは悪いことしてないって、ぼくは信じてるからね」
「へえ、そうなんですか?」

和葉と会話をしているのは、どうやら水島のようだった。一瞬人違いかと思ってしまうほど、彼の口調は普段より冷めたものだった

「レオは何にもしてないんだって、みんなに分かってもらえるように頑張るよ」
「……篠宮はどうなるんですか? 先輩」
「ああ、レンはまだわかんないから。風紀の皆で調べてるところだよ」

拓海が思わず自分の胸元の服を握り締めると、再び口元にマシュマロが押し付けられた。無言でそれを食べる。ふわふわの食感が、見る間に口の中で溶けて行く。

「レンが心配なの?」
「……まあ、友人なんで」
「そうなんだ」
「和葉、時間だ」
「えーっ、もっとレオと話してたかったな」
「先生が呼んでるんですよね、三枝先輩。心証が悪くなるんで、早く連れて行ってくださいよ。俺が一人で行ってもいいんですか?」
「怒られちゃうよ! 三人で行こ?」

それから、向こうにいた三人は部屋から出て行ったようで、暫くすると人の気配は無くなった。

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