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「平木先輩、その人たちに会えることはできますか?」
「彼らは今、学園外にいるんだ。心的外傷後ストレス障害、つまりPTSDの恐れがあり、カウンセリングを受けるためとしてね」
「目撃していた人もですか?」
「そうだよ。友人が強姦されかかっているのを目撃したショックが強かったとのことのようだ」

それは、もしかして蓮と水島の処分が決まるまで、彼らの口を塞いでおくのが目的なのだろうか。学園の外にいれば、学園生に会うこともないし、PTSDともなれば、素人が容易く事情を聞くのもはばかれる。
そう考えると、彼らの背後にいるだろう黒幕の、奸知にたけた様子がうかがえた。

「今は外出禁止中だから、会いに行けませんね」

昨日の今日で門扉の見張りは厳重になっているだろうし、あんなに警備員の目がある中では、ここから抜け出すことは難しいだろう。

彼らに直接会って、証言を撤回してもらうように説得するつもりだったが、狡猾な誰かに脅されていて、しかも会うことが出来ないなら、それは難くなってしまった。
拓海が意気消沈していると、平木がおもむろに口を開いた。

「つい最近、同じような事件があってね」
「そうなんですか?」
「前任の副委員長だった人物なんだが、彼は学園生を強姦したとして、槍玉にあがってしまったんだ」
「それで、どうなったんですか?」
「学園を辞めてしまったよ。無実を証明することはできたんだが、彼はそれをせずに去ってしまった」
「どうしてですか?」
「風紀副委員長だったにも関わらず、虚偽であってもそういった問題を起こしてしまったからだろうね」
「そんな……。不名誉の濡れ衣を被ったまま、辞めてしまったんですか?」
「彼を信じていた生徒たちが、濡れ衣を晴らしていたよ。しかし、彼自身がこの学園を信じられなくなっていたのかもしれない。……ああ、そんなに悲しそうな顔をしないでくれたまえ。君には笑顔が似合うのに」

眼鏡で表情がいまいち分からないが、途中から沈痛な声音になった平木が、拓海の手を握ろうとその手を伸ばしてくる。しかし、拓海の手に触れる前に、飛んできた消しゴムが平木の手に当たった。

「せ、先輩大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だとも」

平木が消しゴムが当たった手を押さえながら、戸谷の方へ顔を向ける。戸谷は明後日の方向を見て知らん顔をしていた。

「君を悲しませてしまったお詫びに、僕が何とかして被害者と目撃者に会わせてあげよう」
「えっ、会えるんですか?」
「家庭の事情だと言って申請すれば可能だろう。許可が出るのは明日になってしまうだろうが、彼らがいる病院まで案内しよう」
「ありがとうございます」

少し希望が持てた。彼らを説得するのは難しいかもしれないが、出来ることはやろうと思う。


それから平木と打ち合わせをした後、拓海は戸谷とともに記者室を後にした。
相変わらず戸谷は不機嫌そうで、黙ったまま拓海から距離を開けて後ろを歩いている。

一階まで降りて廊下を歩いていると、外から爆竹が鳴っているようないくつもの破裂音が鳴り響いてきた。
その音に気をとられて、拓海が窓の外を見ていると、背後から呻き声が聞こえてくる。驚いた拓海が振り返ると、ふらついていた戸谷を、追い討ちをかけるようにお面を被った誰かが殴り付けている瞬間だった。

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