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平木の仕事部屋は、生徒会室や風紀室があるフロアの下の階にあった。委員会の会議室がある並びにあり、プレートには記者室と書かれてある。
官庁などにある、記者クラブのようなものなのだろうか。拓海がそう考えていると、平木は指紋認証をして扉の解錠を行った。

「ここには秘密の情報が眠っているからね。関係者ではないと開かないようになっているんだ。ふふ、君が関係者になって指紋を登録しても構わないのだよ」
「そんな重責は負いたくないですよ、先輩」
「ああ、そうだね。君はこの部屋の恐ろしさを分かっているんだね。ああ、でも残念だ……」
「きめぇ」

拓海の後ろにいた戸谷の呟きは、陶酔ぎみの平木の耳には入らなかったようだ。
室内に入ると、統一性のない様々な物にあふれ雑然としている。この部屋にも高級そうなソファーセットが置かれていて、拓海は平木と向かい合って腰をかけた。戸谷は端の方で棚に寄りかかり、怠そうに腕組みをしている。

改めて室内を見回すと、部屋の隅にパソコンが並んだデスクがあり、平木の背後には存在感のある大きな金庫が見える。拓海の隣にある本棚には、六法全書をはじめ多岐に渡った本が並べられており、その本棚の上には、本格的なビデオカメラが無造作に置かれていた。

「藤沢君、君には分かっていると思う。相手の秘密を知ることは、その相手を傷つける凶器を手に入れることと同じだと」
「そうですね。でも、俺は真実が知りたいんです」
「被害者だと言っている生徒は、誰かに脅されているの可能性もあるんだよ。それでも彼らのことを知りたいんだね」
「その人たちが何か辛い思いをしていたとしても、だからといって蓮や水島君を陥れてもいい理由にはならないですよね。水島君が拘束された時点で、その人たちは加害者になったと思っています」
「そうだね。君の考えはとても共感できるよ。あれもこれも守りたいという偽善的な聖人君子など、互恵を求めているのではないかと勘ぐってしまうからね」

平木はそう言ってくれたが、被害に遭ったと言う生徒たちに、水島が犯人だと言わなければならない理由があったなら、彼らを加害者だと言った拓海は酷い人間に見えるだろう。
それでも、拓海は蓮と水島の無実を証明するために、動くことをやめるつもりはなかった。

「……先輩、その人たちは脅されていたから、蓮や水島君が犯人だなんて証言したのでしょうか」
「被害に遭ったと証言している生徒と、目撃したと言っている生徒には、誰も知らない繋がりがあったんだよ」
「繋がりですか?」
「彼らは、学園では秘密の恋人同士だったんだ。片方は親衛隊持ちの人気者であり、もう片方はごく普通の生徒だった。だから、この学園では表立って付き合いが出来なかった。それだけではなく、彼らの家はお互いにライバル関係にあるからね。二人のことが知られれば、引き離されてしまうのは目に見えている。彼らには、弱みが沢山あったんだよ」
「じゃあ、その二人の関係を誰かに知られてしまって、それで脅されているかもしれないんですね」

平木は黙って頷いた。

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