「あの、話を聞いてくれて感謝しています。それで、なんだか凄くくたびれてるように見えるんですけど、もしかして、忙しかったんですか?」
「俺を気遣う余裕が出来たか」
「はい、そうです。えっと、先輩、でいいんですよね。先輩のおかげです」

美男子が言ってた通り、もしあのまま一人でいたなら、こんなふうに前向きな気持ちにはならなかったかもしれない。

「悠真だ」
「ゆ、悠真、先輩……。俺は藤沢拓海です。あの、お疲れの所ありがとうございました」
「いや。溜まった仕事も粗方片付いた所だ。能天気な奴らが、男のケツを追いかけて仕事を放り出しやがってな」
「はあ……、大変だったんですね……」
「あいつらにはしっかりお仕置きしてやるさ。それに、ここで拓海に会えたのはいい息抜きになったし」

そう言った悠真が口元に笑みを浮かべると、とたんに端正な顔は柔らかい雰囲気になった。
なんとなく優しくなった空気に、居たたまれない気分になる。拓海はイケメンに弱いのだ。

「来年。またこうして話せたらいいな」
「は、はい」

ただの励ましだろうに、見つめられながらそう言われるとドキドキしてしまう。
絶対にこの男はタラシだと拓海は思った。泣かされた人間も数多くいそうだ。
しかし拓海自身、またこうして悠真と過ごすのは、とても楽しいだろうと感じていた。



それから、遠慮する拓海に構わず、少々強引に悠真に校門まで送られたうえ、駅までの車まで手配してくれた。
何から何まで世話になり、拓海が感謝していると「お礼なら来年」と言われてしまったので、なおさら頑張って受験しなければならない気がした。
こんなに素敵な先輩がいるのなら、きっと学園での生活も楽しいものになるだろう。
どん底まで落ちてしまったような拓海だったが、そんな希望を持つことができた。


Continued.

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