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水島と蓮が犯人だと言っている生徒がいる限り、それを覆すような証拠がなければ、二人は処分を受けることになるだろう。処分が決まる前、つまり今日、明日のうちに二人が無実である証拠を示さなくてはならない。
それが、河峰と話したことで拓海が得た情報だった。

無罪を示す証拠は見つけるのは難しい。だから、二人を犯人にした生徒の証言を撤回させることが一番いいのだけれど、被害に遭ったと言っている生徒と会えなければ、どうすることも出来ない。

風紀室から出た拓海は、重い溜め息をつくと、寮へ向かって歩き出した。後ろから静かに戸谷がついて来ている。開けられた距離に、戸谷の感情も籠められているような気がした。


廊下を歩いていると、平木と出会った。拓海を待っていたようで、こちらに気付くとすぐに呼び止められる。
戸谷にちらりと顔を向けてから、平木は口を開いた。

「藤沢君、キミが僕を頼って来てくれるのを今か今かと待ちわびていたのだが、我慢が出来なくなってこうして会いにきてしまったよ」
「……はあ」
「篠宮君と水島君のことで、僕にお願いしたいことがあるんじゃないのかな? 僕の情報は伊達じゃないからね」
「平木先輩……」
「ここではなんだから、僕の仕事部屋に行こうか」
「おい」

それまで静観していた戸谷が、伸ばした手で拓海の肩を掴んだ。

「まさかこいつについて行くつもりじゃねえだろうなぁ」
「え、そのつもりだけど」
「おまっ、バカじゃねぇの? 明らかに怪しいだろうがよ」
「怪しい……。まあ、うん」

拓海が平木を見ると、口元に微笑みを湛えた平木の眼鏡に光が反射して、目に眩しい。平木は、そのままでも充分怪しげだ。

「平木先輩は好意で言ってくれてるんだと思うよ。それに、戸谷君も一緒なんだし」
「ふふふ……。藤沢君は信頼してくれているんだよ、戸谷君、キミを」
「バッ、バカじゃねえの……!?」

不気味に平木が笑い、戸谷は拓海を睨みながら挙動不審になった。

「ここに来て間もない俺には、明らかに情報が足りない。水島君達の無実を証明するために、少しでも実態なり真実なり知る必要があると思うんだ」
「……風紀に睨まれてまで、何でお前がそんなことするんだよ。それこそ、水島さんと知り合って間もないんだろ?」
「そうだよね。知り合って間もないのに、水島君には何度も助けてもらってるんだ。そんな感じだけど、俺は水島君を大事な友人だと思ってる。だから、ここで動かないで、どこで動くんだって思わないか?」
「だからって、お前がどうこう出来る問題かよ」
「そうかもしれないけど、見過ごすことは出来ないよ。戸谷君だって同意見だと思うんだけど」
「……べ、別にっそ、そんなんじゃねえよっ。仕方ねえからお前の男気……じゃねえ! ワガママに付き合ってやるけどな!!」
「……ありがとう」

真っ赤になりながら戸谷が怒鳴っている。俗に言うツンデレというやつなのだろうかと思ったが、戸谷は複雑過ぎて拓海にはよくわからなかった。

「僕も藤沢君の意見に賛成するよ。キミの信用を失うような真似はしないさ。さあ、来たまえ二人とも」

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