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「何で戸谷が一緒に来るんだ?」

拓海と共に風紀室に来た戸谷を見て、松平が眉をひそめる。戸谷のことを知っているようだが、あまりいい感情はないようだ。

「あ、戸谷君も水島君が心配だったようなので、一緒に話を伺ってもいいですか?」
「なっ!」
「はぁ?」

入り口で睨み合うようにしていた二人が一斉に拓海を振り返る。眼力がすごい。

どうやら、拓海はフォローの仕方を間違ったようだ。戸谷は若干頬を染めながら口をパクパクさせ、松平はそんな戸谷をニヤニヤしながら見ている。

どうしようかと思っていると、河峰が拓海をソファーに促したので、応接室のような立派なソファーに腰をかけた。風紀室はとても広くて、豪華なソファーセットがあっても、まだ余裕があった。大きめの窓の傍には、ちょっとしたオフィスのようにデスクが並んでいる。

「松平、書類を整理しておいてくれ」
「はい」

戸谷と睨み合っていた松平は、河峰に言われてようやくデスクに向かった。やっとピリピリした雰囲気が無くなったが、戸谷は壁に寄りかかりながら拓海をジロリと睨んでいる。

「お忙しいのにすみません」
「じっくり話をしないと、いつまでも食い下がってきそうだったからな」

その通りだ。
河峰は、付き纏われるより、わざわざ時間をとって話しをすることを選んだらしい。

「水島君の無実は証明されましたか?」
「まだだ」
「そんなに証言した生徒の話には信憑性があるんですか?」

拓海は、水島を陥れようとしている生徒を“被害者”とは呼びたくなかった。
その人と直接話しをしてみたいが、きっと会わせてはくれないだろう。

「勿論、水島君の言い分だって聞いてくれているんですよね」
「……君は、外部入学だったな」
「そうです」
「あまり学園のことも、況してや水島のことも、全てを知っているわけではないだろう」
「どういう意味ですか? 確かに水島君と知り合って間もないですが、彼がそんなことをする人じゃないことくらいはよく分かりましたよ。それに、水島君は異性愛者だって……」
「相手を傷付けようとする上で、そんなものは関係なくなる。学園にいる者なら尚更だ」
「河峰先輩、それってあんまりです」

松平の突き刺すような視線が向けられると、離れた所にいた戸谷が拓海の傍に来た。さっきまで拓海を睨んでいたのに、どういった風の吹き回しだろうか。だが、おかげで松平の視線は遮られた。

河峰の考え方が偏っているのか、それとも、ここはそんなふうにしか考えられない場所なのだろうか。
オリエンテーリングでは、事件があったのは辛かったけれど、それまではみんなが心底楽しんでいたのがわかった。悠真や遥都が頑張っているんだと思ったが、羽二生や他の生徒たちも見回りをしたりと協力していた。
そうやって学園を守っている生徒がいるのに、そうではない人もいるんだと、拓海は遣る瀬ない気持ちになる。

「河峰先輩は、被害にあった生徒しか守らないんですか? 水島君も同じ生徒です」

じっと拓海を見ていた河峰の瞳が僅かに細められる。

もっと他に伝えたいことも、ましな言い方もあるだろうけれど、拓海には上手く伝えられそうになかった。

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