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水島は、拓海に待っていろと言外に伝えていたが、犯罪者のように連行されて行く水島の後ろ姿を見てしまうと、いても立ってもいられないような焦燥感が募る。

「河峰先輩」

拓海が、風紀委員の団体の最後にいた河峰に呼びかけると、彼は立ち止まってゆっくりと振り返った。そのまま行ってしまうかとも思ったが、わざわざ話を聞いてくれるようだ。

河峰の隣にいた生徒も一緒に立ち止まり、面倒そうに拓海を見ている。

「暴行された人が、水島君にやられたと話していたんですか?」
「そうだ」
「水島君はやっていないと言っていました」
「犯人がやってないって言うのは当たり前だろ」

河峰の隣の生徒が、呆れたように吐き捨てる。

「本当に犯人じゃなくても否定はしますよ。先輩たちは被害者の言い分しか聞かないんですか?」
「んなわけないだろ。でも強姦未遂じゃ……」
「松平」
「あっ、スミマセン!」

河峰にたしなめられ、松平と呼ばれた生徒が慌てて口をつぐんだ。

「強姦未遂? 暴行じゃないんですか?」
「……被害者は学園の生徒だ。彼の名誉のためにもあまり公にしたくなかった。しかし、被害者は水島と篠宮が犯人だと言っているのは事実だ」
「蓮が!? そんなはずありません。昨日だって……」
「わかっている。篠宮は体調が回復次第事情を聞く予定だ。被害を受けたのは入学式当日の夜だったが、恐ろしい思いをしたために今まで言いだせなかったらしい」

そんなはずはない。拓海と会うまで、水島と蓮はお互いに交流はなかったようだった。共謀していたとは思えない。
何より、彼らはそんな卑劣なことをするような人たちではない。

「目撃証言もある」
「絶対に人違いです」
「いい加減しつこいな。どう考えてもあいつらが犯人だろ。もしかして、お前も共犯なんじゃないのか?」

松平と呼ばれた先輩が、拓海を訝しむように睨んだ。
いい加減にして欲しいのはこっちだと、拓海も負けじと相手を見つめる。
そんな中へ、第三者の声が挟んできた。

「そんなはずないから。やっぱり風紀は役立たずだな」

河峰たちの後ろからやってきたのは、笑顔の羽二生だった。さらりと吐いた毒に、松平がいきり立つ。

「羽二生……!」
「疑うことしか脳がないから、面倒くさいことこの上ない。彼はこちらで保護しますんで」
「なぜ羽二生が出てくる」
「ちょっと先生に用があってこっちに来たんだ。そしたら、幼気な子をあろうことか風紀がよってたかって虐めてるからさ。昨日、彼が迷子になっていたのをうちが助けたんで、他人事ではないかなって思って。外部入学で、学園にも慣れていないのに、いきなり犯人扱だもんな。あんた方の無能を改めて実感したよ」
「テメェ!」
「よせ、松平。行くぞ」
「い、委員長……」

河峰の制止で、今にも羽二生に飛び掛かりそうだった松平は動きを止める。河峰に絶対服従の様子だった。
そのまま河峰が歩き出すと、松平は慌てて後を追いながら、一度振り返って羽二生を睨んだ。

二人の姿が見えなくなると、羽二生が拓海を覗き込んでくる。

「大丈夫?」
「羽二生先輩……」
「大丈夫じゃないね。寮に戻ろうか?」
「あ、一人で大丈夫です」
「そんなことしたら、俺が会長に殺されるよ。距離を置いて後からついて行くな」

頷いた拓海が歩き出すと、今度は進行方向に常磐の姿が見えた。

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