22

職員棟にある医務室は、簡単な医療行為ならできるように設備が調えられている。
街から離れた場所で寮生活をする子どもを心配した親からの、多額な寄付金で成り立っているらしい。

医薬品の匂いがする医務室に入り、その奥にあるドアを開けると、ベッドが置かれた部屋になっていた。
水島は医務室に残ったので、拓海だけがそこへ入って行くと、ベッドボードにクッションを重ねて、蓮が凭れて座っていた。拓海に気付くと、ぱっと瞳を輝かせる。

「拓海!」
「もう起きても大丈夫なんだ?」
「微熱だからな。寝てばっかりでもつらいから、気分転換してたとこ」

蓮が読んでいたらしい本を閉じて、改まったように拓海に向き直った。

「俺、実は意識なくて覚えてないんだけど、羽二生先輩からだいたい聞いた。拓海、本当にありがとう」
「俺は何もにもしてないよ。力不足で、結局一緒に助けられちゃったしね」
「それはしょうがないだろ。多勢に無勢だったんだから。危なかったのに、俺を助けようとしてくれた拓海の気持ちが嬉しかったんだ。だから俺も、拓海のためなら何だってするつもりだからな」
「それは楽しみかも。早く元気にならないとね」

何だかすごく気合いが入っている蓮を見て、拓海は口元を綻ばせた。
蓮にあの時の記憶がなかったことに、拓海は少し安心した。異性愛者の蓮が、同性に乱暴されそうになった記憶などない方がいい。

そうして、まだ蓮の体調が万全ではなかったため、今の学園の様子を話してから、拓海は水島と一緒に医務室を後にした。

「元気そうだったよ」
「そうみたいだね。まったくのん気なもんだよ。ところであんたは平気なわけ?」
「俺?」
「襲われそうになったんでしょ?」
「未遂だから大丈夫だよ」

拓海がそう答えると、水島は肩を竦めた。

「本当は、俺とあんたがペアになるはずだったんだ。改ざんされてなきゃ、そんな目に合わせなかったんだけどな」
「……ありがとう」

隣に立つ水島の、らしくない雰囲気に少し呑まれながらも、拓海を慮ってくれている台詞に嬉しくなってお礼を言った。

「でも、始めから俺と水島君がチームだって知ってたの?」
「その辺はまあ、色々とね」
「ふーん」

きっと遥都から情報が入っていたのだろうと考えていると、前方に風紀委員長である河峰の姿が見えた。
職員棟の入口に、河峰を中心とした体の大きな生徒が数名が立っていて、かなりの威圧感を出している。拓海達の姿を見つけると、河峰達が動き、目の前に立ちはだかった。

「水島、風紀室まで来てもらいたい」

水島の正面に立った河峰が、鋭い視線で水島を見下ろす。

「はあ?」
「身に覚えがあるだろう」
「残念だけど、あんた達と関わるような面倒なことはしてないけど」
「嘘を吐くな。貴様に暴行された生徒がいるんだ。連れて行け」

河峰の合図で、周りにいた生徒達が水島を両脇から拘束した。水島は抵抗もしなかったので、あっさり捕まってしまう。

「ちょっと待ってください! 何かの間違いではないんですか?」

拓海が近づこうとすると、河峰といた生徒のうちの一人が、拓海の肩を掴んで引き留めた。

「藤沢に触るな。俺は何もやってないし、直ぐに戻るから」

後半は言い聞かせるように拓海に言いながら、水島は二人の生徒に両腕を拘束されたまま、連れて行かれてしまった。

[ 22/58 ]


[mokuji]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -