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事件から翌日。蓮はまだ医務室にいた。
熱は風邪からきたものだったが、蓮が摂取したクスリが完全に抜けて体調が戻るまでは、校医が付き添っている。
今日は学園も休みなので、拓海は水島と共に蓮の元を訪れるつもりでいた。

拓海が寮の入口で水島を待っていると、見回り中の警備員の姿が目に入る。
事件があったせいで、今日は学園生の外出は禁止になった上、警備員も増やされおり、学園内は重々しい雰囲気となっていた。

昨日は、あれから水島に会って事情を説明すると、案の定呆れられてしまった。あんたらしいとも言われたけれど、面白いことになっているとも言っていたので、悠真への恩義と遥都への友誼との板挟みになっている拓海の状況を楽しんでいるらしい。
確かに、助けてくれた悠真を裏切れない。好きなように行動すればいいと言ってくれたのは、それだけ拓海を信用しているということだ。
けれど遥都がとても心配していたと水島から聞いてしまうと、その方がいいとはいえ、本当のことを言えないのは後ろめたく、心苦しかった。

「でも、誰が蓮にあんな酷いことをしようとしたんだろう」

拓海がぽつりと自問する。不意に、和葉の姿が脳裏に浮かんだ。

「……まさかね」

いくらなんでもそれは考え過ぎだろうと拓海は首を振る。
そんな時、橋本が拓海のそばを通りかかった。オリエンテーリング中に別れたままだった橋本には、昨日のうちに迷子になっていたと話してある。

「橋本君、昨日は心配させちゃってごめんね」
「もう気にしないでいいよー。あ、昨日の事件のことなんだけど」
「何かあったの?」
「篠宮君を助けたのが中瀬会長本人だったって噂があるんだよ。昨日、藤沢君は親衛隊の方と一緒にいたでしょ。その時、何か気付いたことなかった?」
「ええっ、助けたのは会長の親衛隊だって話じゃなかった?」
「聞いた内容だとそうだったんだけど。でも会長ファンが、中瀬様がわざわざ助けに行っただなんて許せないって騒いでたから」
「そんな……」
「わっ、み、水島君!」

橋本の顔が急に赤らんだかと思ったら、どうやら水島の姿が見えたせいだったらしい。その水島がどんどん近づくにつれ、更に赤みを増した橋本は、またねと言って去ってしまった。

「藤沢、どうかした?」

橋本の後ろ姿を見送りながら、固い表情をする拓海を水島が覗き込んでくる。
曖昧に頷きながら、拓海の中には嫌な予感が広がっていた。

悠真が会長補佐と蓮に関係はないと公言しても、橋本が言っていた噂が広がってしまえば、あまり意味がないような気がする。
あの場に悠真はいなかったことになったはずなのに、何故、そんな話が出てきたのだろうか。
以前、同じように会長ファンを煽ろうとしていたのは、副会長の倉林だ。今回蓮の噂が流れているのも、倉林の影がないとも言いきれない。同じ生徒会だったら、悠真の行動もある程度把握出来るかもしれないのだし。

この噂のせいで、また蓮の身に何かが起きてしまうのだろうか。次々と蓮に向けられる悪意に、拓海は不安になった。

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