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「どうかしたのか?」

黙ってしまった拓海に、悠真が声をかけてくるが、拓海は何でもないと首を振った。
悠真は誰のものにもならないと公言しているのに、悠真に好意を寄せている和葉のことをどう思っているのか、聞いてみたいと考えていた。でも、それは酷く無粋に思えて、結局何も尋ねられない。

そうしていると、部屋のチャイムが来客を告げた。
誰が来たのか分かっているようで、拓海に座っているように言った悠真が玄関に向かう。しばらくして戻ってくると、その手には手提げを持っていた。
隣に座った悠真が手提げを差し出したので、拓海は不思議に思いながらそれを受け取る。

「新しい制服と携帯だ」
「えっ?」

中を見ると、確かに制服と携帯らしき物が入っていた。

「制服は拓海と同じような体型だった親衛隊のものだ。予備に持っていたらしいが、今は成長して着られなくなったそうだ。だから気にせずに貰っておけばいい。破られたのは捨ててしまえ」
「捨てるんですか……」

ボタンを付けてクリーニングに出せばまだ着られそうなのに。勿体ないと拓海が思っていると、悠真が拓海が大丈夫なら着ればいいと言った。
どうやら気遣ってくれていたらしいが、拓海はそんなに繊細そうに見えるのだろうか。大切にされて過ぎているようで恥ずかしいけれど、そんなふうに見られる自分が情けなくて、複雑な気分になる。

「携帯は企業から譲り受けていたものだ。拓海はこっちの方がいいかと思ったが、多機能型のものがいいなら変えるが?」
「いいえ、これで充分です。ただ、先輩たちにそこまでしていただいて、申し訳ない気がして」
「拓海が心苦しく感じる必要はない。そもそもお前があんな目に合ったのは、こちらの不手際が原因なんだ」

それこそ、悠真が責任を感じる必要はないと思う。悠真は拓海を助けてくれたし、悪いのはあの男たちと、男たちに依頼したであろう誰かだ。
それでも悠真の好意は無下には出来ず、結局新しい制服と携帯は拓海が使用することになった。

「それから、拓海と俺はあの場にいなかったことになった。帰りに山岸たちに見られたのはお前じゃない、見知らぬ不審者だ」
「誰にも言ってはいけないんですか?」
「そうだ。木崎の親衛隊がお前がいないと騒いでいたらしい。だから、友人を探して迷子になっていたところを俺の親衛隊が保護したことになったからな」
「本当ですか!? なんだか、すみません……」

常磐たちに迷惑をかけてしまっていたようだ。それなのに、本当のことを伝えられないのは心苦しいけれど、拉致されていたと言うよりは、迷子になっていたと言ったほうが心配をかけないだろう。
でも、男に連れ去られる直前まで、電話でやり取りしていた水島は誤魔化せない。水島には拓海が悠真と知り合いだと知られているし、本当のことを話すしかないのかもしれない。
そのことを悠真に話すと、それでいいと言ってくれたので、後で水島に会いに行くことにした。

「俺はそろそろ行くが……」

その言葉に、思わず拓海は悠真を振り仰ぐ。そんな拓海を見た悠真は、柔らかく目を細めた。

「また来る。何かあったら俺に連絡するといい」

そう言った悠真に頭を撫でられて、拓海が一瞬感じた寂寥感は、あっという間に拡散していた。

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