言葉に詰まる拓海を見て、美男子は鼻で笑った。
どうやら、彼には拓海の事などお見通しらしい。

「その制服のズボン。裾を折り曲げてて借り物くさい。それに今の俺を見ても驚かなかった。俺を知らないのはもぐりに決まってる」

台詞だけ聞けば自信過剰だが、言っているのがこの男なら納得できる。きっと、この学園には彼を知らない者はいないのだろう。

よりによって、あんな場面でこんな人物に出会ってしまうとは。拓海は自分のタイミングの悪さを呪いたくなった。
しかも、失恋のショックで呆然とした状態で、目に痛いほどの美男子を直視してしまったのだ。それで混乱して、言いなりになるままベンチに隣同士で座ったのは失態だった。

「だからって、あなたにそれを言う必要はないでしょう」
「まあ、そうだな。あいつらはお互いに惹かれ合ってるから、どうせそれ以外はつまみ食い程度なんだろう」
「わ、分かってますよ、それくらい……」
「分かってたのか」
「失恋したって言ってたから、少しでも元気になってもらいたくて……。代わりでもいいって、お、思ってたけど……っ」

誰かの代わりでもいいって思ってた。そのくらいに幼なじみの事が、本当に大好きだった。
格好良くて、優しくて、拓海の事もとても大切にしてくれて。でも、結局身代わりは身代わりでしかなかったのだ。
改めて思い知らされると、胸のどこかに生じていた亀裂から、悲しみが溢れ始めてきたような気がする。

「あー、よしよし」

頭を大きく撫でられた拓海は、そのまま肩を抱かれて相手の胸元に引き寄せられた。
優しくされると余計に悲しくなって涙が出てくる。

「……代わりになんて、なれるはずなかったのに」
「まあそうだよな。ほら、泣け泣け。虚しく一人で泣くより、俺がいるうちにめいいっぱい泣いちまえ。貴重な俺の胸を貸してやるからな」

偉そうな上にお座なりな口調だが、拓海の背中に触れる手は優しい。
シトラスの、爽やかなのにとても甘い香りがした。

[ 5/9 ]


[mokuji]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -