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何か裏がありそうな和葉。その和葉が、悠真に好意を寄せているから、拓海自身気掛かりになっているのかもしれない。だから、この後和葉のそばに行く悠真のことが心配なのだ。
自分の機嫌が悪かった理由をそう結論付けて、拓海は浴室から出た。


服を着てから部屋に戻ると、悠真は電話で誰かと話しをしているところだった。
拓海に気付くとすぐに会話を終わらせ、自分の隣を指でトントンと叩き、そこに座るように促す。一瞬迷ったものの、拓海は素直に悠真の隣に座った。

「先輩、忙しいのに時間を取らせてしまってすみません」
「いや。事件の直後に話を聞くと、恐慌状態に陥ることもあるからな。それに、一息入れれば細かいところまで気付ける場合もある。落ち着いたか?」
「はい」
「篠宮は念のため校医を呼んで診てもらってる。クスリについては、時間とともに効果が薄れていて問題ないが、どうやら発熱しているらしい」
「あ、あの人たちも言ってました。クスリを使ってるにしては、蓮が熱かったって。もしかしたら、今朝水をかけられたせいかもしれないです」
「そうか。拓海、話してくれるか?」

様子を確認するように見つめてくる悠真に、拓海は大きく頷いて、今日の出来事を順を追って悠真に説明した。
男たちに捕まった時は怖かったけど、すぐに助けられたから何もなかったし、悠真の言う通り、湯槽に浸かって落ち着いたせいか、恐怖心は薄らいでいた。信頼できる人が、そばにいてくれるせいでもあるかもしれない。

「ウィルス性の胃腸炎ね。本当だったら大問題だったな」
「必死だったんです。あっさり信じてたから良かったんですけど……」
「無茶をする。篠宮のことばかりで、自分の危険は考えなかったのか」
「……水島君が異変に気付いてくれてると思ったから」
「それは、救助が来るまで自分で時間を稼ぐつもりだったということか」

何も言えなくなった拓海が俯くと、悠真は大きく溜め息をついた。

「その自己犠牲の精神は、羽二生だったらいたぶりながら潰してくるだろうな。下手をすれば誰も助からない。無力な己を思い知れってな」
「……はい」
「だが、俺なら下手をする前に何とかする」

そう言った悠真が、俯き加減だった拓海の両頬を摘んだ。

「ひ、ひたいです」

頬を引っ張られて顔を上げると、辛辣な口調だった悠真は思いの外優しげな表情をしていて、拓海は思わず見入ってしまった。

「見て見ぬ振りをすれば、お前は後悔するんだろう。だったら、自分自身が力をつければいいが、今すぐにどうこうなるわけじゃない。もし今回のように危険が迫ったなら、俺が必ず助ける。だから、拓海は思うままに行動すればいい」

拓海は、半ば呆然としつつ目の前の端整な顔を見つめた。
悠真は小さく笑うと、頬を摘んでいた手を外し、拓海の少し熱を持った頬をするりと撫でた。

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