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拓海は目の前にある美少女の顔をぐるりと動かした。後ろを向いた彼女の視線の先では、悠真がコーヒーを入れている。

和葉達が行ってしまった後、拓海は再び悠真に手を引かれて寮の自室まで帰ってきた。
部屋に入ると、悠真は拓海をソファーに座らせて、手ずからコーヒーを入れ始めていた。拓海には難しいけれど、悠真は手慣れた様子でコーヒーをドリップしている。
悠真も自分で飲み物を入れたりするんだと、拓海がぼんやりしている間に、室内にはコーヒーのいい香りが広がっていた。

悠真がコーヒーを手に、拓海のそばに来る。差し出されたカップを受け取ってお礼を言うと、悠真が隣に座った。
悠真がコーヒーを入れるのも、隣に座るのもいつも通りではないので、そのせいかどぎまぎしながら拓海はカップの中を覗いた。
拓海の希望通り、ミルク入りのコーヒーだった。それが嬉しくて、香りに釣られるように一口含んでみると、酸味も強すぎることもなくてとても美味しい。

「美味しい。悠真先輩すごいです!」

笑顔で言った拓海に、悠真も笑みを浮かべる。

「機嫌は直ったのか」

そう言われて、拓海は再びカップに視線を落とした。

確かに、拓海の気分は沈んでいたけれど、その理由が自分自身いまいちよく分かっていなかった。
悠真に不審者扱いされたからなのだろうかとも考えたけど、しっくりこない。言われた時は驚いたが、あの場では仕方ないことだと分かっている。

それにしても、和葉達がいなくなった後、急に無口になった拓海を悠真は気にしてくれていたようだ。それが何だか申し訳なく思う反面、面映ゆくて、そんな自分に戸惑う。
今も隣から悠真の視線を感じて、拓海はコーヒーから視線を上げられずにいた。

「不審者にして悪かった」
「あっ、いいえ。それは気にしていません……。ちょっと疲れたみたいで、あの、すみません」

悠真に謝られてしまって、居たたまれなくなった拓海は、悠真に向かって逆に謝ってしまった。
それでも悠真は微笑んでくれたので、悠真の笑顔を見た拓海は、自分が沈んでいた理由を考えるのをやめた。悠真に気を遣わせてしまうくらいなら、さっさと気分を入れ替えてしまった方がいいだろう。

「大変だったな。もうすぐ風呂も出来るから、ゆっくり入ってくるといい」

そう言った悠真が、拓海を労るように背中に手を回してきた。
必然的に悠真が近づく。本日何度目かの悠真のアップだが、慣れることはできない。けれど、優しく触れてくる悠真の腕から、じんわりと温もりを感じるので嫌ではなかった。

「……お風呂ですか?」
「ああ。疲れているなら尚更だ。温まって落ち着いてから話を聞く」
「はい、ありがとうございます」

ぼんやりしている間に、悠真はお風呂の準備までしてくれていたらしい。
それから拓海は、悠真に言われるがままお風呂に入り、湯船に浸かったところでふと気が付いた。

「あれ、何でのんびりお風呂に入ってるんだろう……」

悠真は忙しいのに、これでは足止めさせていることになる。
拓海は、後で和葉達と合流すると言っていた悠真の言葉を思い出した。
そうして、再び気分が下降して行く自分に気付いて、拓海は先ほど機嫌が悪かった理由にようやく思い当たった。

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