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アニメ少女となった拓海は、会長に手を引かれながら寮に向かって足早に進んでいた。

被り物のせいで視界が悪く、躓きそうになっていた拓海を見兼ねて、悠真が手を引いている。
しかし、美男子と美少女の被り物の組み合わせは、どう見てもおかしいだろう。こんな生徒会長の姿を見られたら、悠真の威厳も評判もがた落ちに違いないと思い、拓海は緊張しながら歩いていた。
学園に侵入者があったため、学園生たちは全員体育館に集められているらしく、誰かに見られる可能性は低いと言っていたが、もしかしたらということもある。
これ以上悠真に迷惑を掛けたくないというのが、拓海の本音だった。

拓海の手を握る悠真の手は、思っていたよりも温かい。
そんな悠真を見上げると、いつも通り貴公子然としている。やっぱりバラバラで行った方がいいのかなと拓海が思った時、悠真が歩みを止めた。

「先輩?」
「いいか、絶対に口を開くなよ」

繋いでいた手を外して、拓海の腕を掴み直した。
悠真が前方を見据えながら言ったので、拓海も視線を向けると、そこには和葉と三枝がいた。
うわっと思わず声に出してしまった拓海に、悠真は小さな声で大丈夫だと告げる。

「ユウマー!」

頬を紅潮させながら駆け寄って来た和葉が、被り物を被った拓海を見て驚いたように目を見張った。

「この人、だあれ?」
「見ればわかるだろう。不審者だ」

不審者扱いされた拓海は、ぎょっとして悠真を見る。
確かに、こんな物を被って学園をうろついていたら、とても怪しいだろうけど。しかし、悠真が大丈夫だと言ったなら、拓海は言われた通り黙って立っているしかない。

「ふ、不審者? ならボクたちが風紀室連れて行くよ。ね、ユキナリ」

和葉に呼ばれて、少し頬を赤くした三枝が黙ったまま頷く。

「風紀は侵入者の処理で忙しいはずだ。こいつは俺が話を聞くから、お前たちは持ち場に戻れ」
「あっ、そうだよ。風紀だけじゃなくて、生徒会も一緒にって言ってたから、ユウマを探しに来たんだよ」
「俺の代わりに親衛隊がそっちに行く」
「え、何で……?」

和葉の表情がサッと変わった。眉を垂れさせた困ったような表情から、何かを耐えるような顔になる。
拓海を掴んでいる悠真の腕を和葉のほっそりした指が掴んだ。

「やっぱり、捕まえたのがユウマの親衛隊だったのは本当だったんだ」
「あいつらが現場を押さえたのは偶然だ。手の空いた親衛隊員は見回りをすることになっていただろう」
「ほんとうに?」
「他に何かあると?」
「ううん、なんでもないよ。この人は不法侵入した人たちのお友達じゃないの?」

和葉が大きな目で拓海を見つめる。被り物をしているのに、拓海の顔を見透かしてきそうな視線だ。
和葉の手が絡んできても、悠真の手は拓海から離れないので、何となく怖い和葉の視線を受けても大丈夫だった。
今の拓海は不審者だから、悠真が離さないのは当然なんだけど。

「事情聴取しないとわからないが、仲間である可能性が低いから別れて話を聞くんだ」
「でも、ユウマの親衛隊さんが来るなら、ユウマがアレコレ指示しないと駄目でしょう」
「あいつらは俺がいなくとも大丈夫だ」
「けど……。ぼく、ユウマの隊長さん怖いし……」
「お前には風紀委員がついてるから大丈夫だろう」
「ユウマ……」

和葉が潤んだ瞳で悠真を見上げるが、見つめられている悠真の方は淡々とした態度を崩さない。
拓海は、あの羽二生がこの和葉に何をしたのかが少し気になってしまった。

「こいつに話を聞いた後合流するから、先に仕事に戻れ」
「うん! じゃあ先にお仕事してるね。一緒に頑張ろうね!」

悠真の言葉に、花が咲いたような笑顔になった和葉は、元気に駆け出した。悠真をじろりと見た後、三枝も和葉を追い掛けて行った。

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