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「ちょっと待ってくださいませんかね。その子を離していただけたら、特別におたくだけは逃がしてあげますけど」

若い男の声だった。
拓海の前方に立っている人のものだろう。学園の生徒だろうか。

「嘘だろ。そんなのに騙されるか。さっさと明かりを点けろ」
「そうですか。言うこと聞いていた方が身のためなのに……」

目の前の誰かが、呆れたように言った。
その直後、拓海を拘束していた男が、急に叫び声を上げた。
耳元で叫ばれて、拓海が心底驚いている間に男から引き剥がされる。力が入らずに座り込んだ拓海を、誰かが身を包むように抱き締めてきた。

「大丈夫ですから」

さっきの声の主だ。身を固める拓海に、宥めるように声をかけてくる。
それでも、男の悲鳴は拓海の耳から離れなかった。


「……おい、いつまでそうしてるつもりだ」
「あ、すいません。つい抱き心地がよくて」

拓海を抱いていた生徒が離れる。自由になった拓海が顔を上げると、いつの間にか明るくなっていた室内に、二人といない美男子の姿があった。

「ゆ、悠真先輩……」
「大丈夫か?」

艶やかな黒髪に輝くような白い肌、深い黒曜石のような瞳と淡い色の唇。身を屈めて拓海に近づいてきた悠真が、今の拓海の目にはとても神々しく映る。

「先輩、れ、蓮が、……!」

動かない舌をもつれさせながら拓海が訴えると、悠真は小さく嘆息した。
それから、拓海を掬い上げるように抱き上げてしまう。
急に襲った浮遊感に驚いて声を上げた後、目前に近づいた悠真の顔を見つめて、拓海は一瞬呆然とする。
しっかりとした悠真の腕に抱き上げられていた。俗にに言う、お姫様抱っこというものだ。

「ち、違います。俺じゃなくて蓮を」
「こっちも重症だろ。こんなに顔色を悪くさせて」

そう言って拓海の胸元を見ると、悠真は僅かに眉を寄せた。

「お、降ろしてください」

拓海が訴えると、悠真はゆっくりと拓海を下に降ろしてくれた。しかし、足に力が入らなくて、拓海はよたよたとよろめいてしまう。

「お前は生まれたての動物か」

呆れたように言った悠真に支えられて、拓海は自分の情けなさに泣きたくなった。
支えるように悠真にしっかりと腰を抱かれるが、これ以上醜態を晒して迷惑をかけるわけにもいかない。抵抗もできずに、間近に綺麗な顔を見続ける羽目になった。

「ほら、あっちは大丈夫だ」

悠真が示す方を見れば、見知らぬ生徒が蓮をおぶっていた。
部屋にあった衣装なのか、蓮は大きなマントを頭から羽織り、その体をすっぽり隠している。

「蓮は何か飲まされたみたいです」
「きっと催淫効果のあるものかも。えげつないですねえ」

蓮を背負っている生徒とはまた別の生徒が、爽やかに言った。この声は、さっき守るように拓海を抱き止めてくれた人の声だ。
明るい髪に健康そうな肌の色で、スレンダーだが背筋が伸びて姿勢がいい。スポーツがよく似合いそうな人だった。

「それが効いてくるのに時間がかかるようなことも言っていました。あと、蓮を攫ってきたのはここの生徒じゃないみたいです」
「わかった。篠宮を連れて行け。同じチームだった生徒に事情聴取だ」
「はい」

悠真の言葉に、蓮をおぶっていた生徒ともう一人の生徒が室内から出て行った。
いつの間にか偽の学園生達は捕縛されている。拓海を捕えていた大柄な男の顔は、血が流れていて悲惨なことになっていた。

慣れたように手際よく男たちを捕えた生徒たち。彼らは悠真に従っている様子だし、一体何者なのだろうか。
拓海が不思議に思っていると、その場に残っていた爽やかな生徒が口を開いた。

「申し遅れました。俺は中瀬親衛隊の隊長であります」

悠真の親衛隊、それも隊長だと名のられて、拓海は驚きながら爽やかな生徒を見つめる。親衛隊というよりも、スポーツに汗水流しているのが似合うように思えた。

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