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「ご存知ですよね。食堂の牡蠣を食べた人が、何人も休んでたのを。蓮もそれを食べていたんですよ。今日は病み上がりでしたけど、また気持ち悪くなったって言ってました。だから……うつりますよ」

拓海がそう言うと、生徒たちは動きを止めて顔を見合せた。
ここにいる男たちは、学園の制服を着ているが、何となく違和感があった。拓海には、彼らの雰囲気が崩れ過ぎているように感じられたのだ。
いつかの拓海のように、制服のズボンを折り曲げている男もいるから、きっと本物の学園生ではないのだろう。

だから、彼らには学園のことはわからないだろうと思い、拓海は咄嗟に蓮を病人にしてしまった。蓮から離れてもらいたい一心だったが、単純な男たちはそれを信じたようで、蓮に触れる手を止めていた。

「そういや、クスリが効いてるにしてはずいぶん熱いと思ってた」
「だよな……」
「どうすんだよ。もう金はもらってんだぜ?」
「けど早いとこどうにかしないと、こいつらの仲間が異変に気付くんじゃねえの」
「じゃあやるのかよ」
「マワしてる写真が撮れりゃいいんだろ。代わりにこいつにすればいいんじゃね」

誰かがそう言ったことで、男たちの視線が一斉に拓海に向かった。


明かりの点けられた六畳程の部屋には、様々な衣装が並び、変わった道具が置いてある。ここは演劇部の衣装室なのかもしれない。
一つだけある窓は、厚手の暗幕がしっかりと閉じられていた。
ここが学園のどの位置にあるのかはわからない。
きっと水島が異変に気付いてくれていると思うが、広い敷地内を探すのに時間がかかってしまうかもしれない。

拓海は、制服を乱されたまま、ぐったりと横たわる蓮へ視線を向けた。
何とか拓海が時間を稼がないとならないのに、簡単に拘束されて身動きも出来ない。そんな非力な自分を恨めしく思う。
蓮のそばにいた男たちが、拓海に近づいてきた。

「こいつにもクスリ飲ませるのかよ」
「効くのに時間がかかる。やってるとこ撮れればいいんじゃね。顔のアップは本人を撮って誤魔化せば?」

そばに来た男にあごを取られる。舐めるように拓海を見てくる視線に、気持ちが悪くなった。

「これはまた、ずいぶんやり甲斐がありそうなのを拾ってきたな」
「怖くて声も出ないみたいだな」
「そのうち嫌でも声が出るって」

男の手が拓海のシャツにかけられた。嫌な音を立ててシャツが破られる。
外気に拓海の肌が触れた時、突然、辺りが真っ暗になった。暗幕の隙間から光がもれてくることもなく、完全な暗闇に閉ざされる。

「停電か?」

室内に緊張が走った。
そんな時、ガラガラと音が響き、微かな衣擦れと空気が大きく流れるのを感じた。

光も音もないまま、誰かが窓から入って来たんだと理解した時には、拓海の前にいた男達が素早く動く気配がした。

「誰だ!?」

拓海を捕まえていた大柄な男が、苛立ったように怒鳴った。
そんな中で人を殴るような音と呻き声が聞こえて、一気に騒然とした雰囲気となった。

次第に視界が暗さに慣れてくると、数人の人影が見えてくる。
大柄な男がナイフのようなものを取り出した。人質にするつもりなのか、立ち上がらせた拓海を自分の方へ引き寄せてくる。

「ここは誰にも見つからないことになっているんじゃなかったのかよ」

男が吐き捨てるよう呟き、拓海の腰を抱く腕に力がこもるのがわかった。

「動くな! 妙な真似するなよ」

拓海の首筋にナイフの刃が突き付けられる。
男は拓海を連れたまま、ジリジリと出口のある方向に向かった。

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