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拓海たちが音楽室に到着すると、中には三人の三年生たちがいた。
ここでの試練は、この三人にジャンケンで勝つことだったので、拓海はひとまず安心する。

「僕がジャンケンしまーす!」

ほんのり頬を染めた橋本が、気合いを入れて名乗りをあげた。可愛らしい橋本に、先輩たちの目尻もだいぶ下がっている。
拓海は邪魔をするのも無粋だと思い、このまま任せようと傍観に徹することにした。

「あーっ、負けちゃいましたー」
「じゃあ、もう一回する?」
「はい! お願いします」

そんなやり取りをしながら、三年生たちは橋本に甘い対応をしてくれる。
負けても橋本は楽しそうだ。きっと、橋本が心から楽しんでいるのが、三人にも伝わっていたのだろう。
そんなおかげで、何回目かのジャンケンでチェックをもらうことができた。

「じゃあまたねー」
「また今度遊ぼう」
「はい。ありがとうございましたー!」

ナンパされながら見送られているが、勝利を収めて満足しきっていた橋本は、見事にそれを流していた。

「なんか、僕ばっかりやっててごめんね」
「ううん、橋本君がいてくれたから助かったよ」
「ホント?」
「うん。俺だったら、もっとてこずってただろうし」
「そんなことないよー。でも役に立てて良かった」

嬉しそうな橋本の笑顔に、拓海も顔を綻ばせた。

次のチェックポイントを探すために、地図を広げようとしていたところで、拓海の携帯が鳴った。
見れば蓮からの着信だったので、拓海はドキリとしながら通話ボタンを押す。

「もしもし、蓮?」
『……拓海……』

聞こえてきたのは、息が荒く、辛そうな蓮の声だった。蓮に何かあったのかと、拓海は一気に不安になる。

「どうしたの?」
『すっげぇ、具合悪い……』
「今どこ? ペアの人はいないの?」
『……せんせぇ呼びに行った…帰ってこねえ……。林のベンチにいる……』
「わかった。俺が先生に知らせるから動かないでね」

通話を切った拓海に、心配そうな表情で橋本が話しかけてきた。

「何かあったの?」
「蓮の体調が悪くなったみたい。ペアの人もいなくなって、今一人でいるらしいんだ」
「蓮って、篠宮君のことだよね」
「そうだよ。今から先生に知らせに行ってもいい?」
「うん、早く行ったほうがいいよね。篠宮君は今一人なんでしょ、大丈夫なのかなー」

橋本の言う通り、会長補佐のことで騒がれている蓮が、体調を悪くして一人でいるのは、よくない状況だと思われた。

「気になるから、俺は蓮の様子を見に行ってもいいかな?」
「わかった。その方がいいよね。僕は先生に知らせに行くよ」
「ありがとう。せっかく楽しみにしてたのに、中断させてごめんね」

拓海は橋本と別れて、校舎から外に向かった。
蓮が言っていた、林のベンチには思い当たる場所がある。拓海が初めて悠真と会話したところだ。

ベンチのある方に向かいながら、拓海は水島に電話をかけた。

「今大丈夫かな?」
『どうかした?』
「蓮が体調悪くしたみたいなんだけど、今一人でいるんだって」
『わかった。どこ?』
「林の中のベンチって言ってたけど……」
『藤沢は行くなよ』
「今向かってるところ」
『やっぱり。じゃあなるべく早く戻って』
「うん」

水島と通話しながら目的の場所に到着したが、そこに蓮の姿はなかった。

「いない」
『え?』
「蓮がいないんだ。ここじゃなかったのかな」
『藤沢早く戻れ。電話は切らないで』
「わかった」

水島に言われた通りに、通話したまま戻ろうとすると、誰かの携帯が落ちているのが目に入った。
拾い上げてみると、蓮の持っていたものと機種も色も同じものだった。

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