二、三歩足を進めたところで、拓海はぎくりとして立ち止まった。
進行方向に誰かが立っていたからだ。呆然とした状態だったので、気付くのが遅れてしまったらしい。

顔を上げて相手を確認して、再び驚かされる。目の前にいたのは、ものすごく綺麗な男だった。
触らなくてもすべすべだとわかる輝く肌に、二重の形の良い目。すっと通った鼻梁と薄めの唇。おまけに拓海より視線が高い。

幼なじみのおかげでイケメンは見慣れていたはずなのに、それでも息を飲むほど端正な顔立ちをしていた。
ただ、艶やかな黒髪がグシャグシャで、釦をとめていないコートから覗く制服が、くたびれたように着崩されているのが気になった。

「おい、お前。こっちに来い」

見惚れるようにぼけっとしていたので、言われた事に対する反応が遅れてしまう。
そんな拓海を柳眉を寄せて眇た瞳で見ると、美男子は拓海の腕を掴んで歩きだした。

「二人が気になるのはわかるが、一人でこんな場所にいるのは感心しないな」
「……はあ、すみません」

拓海の腕を引いて先を歩いていた美男子は、振り返って目が合うと、軽く溜息を吐いた。
林の外れにあったベンチまで引っ張り、拓海に座るように促す。それから自分も拓海の隣に座った。

「ずいぶんショックを受けているようだな。初めての失恋か?」
「えっ?」
「お前を見ていればだいたい分かる。好きな奴のラブシーンを見たんだろ」

そこで、と彼は顎をしゃくって幼なじみ達がいる方向を示す。綺麗な人はどんな仕草も様になるものだ。

「で、どっちだ?」

そう端的に尋ねられても困る。美男子は言葉が足りないらしい。
せっかちなのか不遜なのか。長いのを見せ付けるように足を組み、ベンチに凭れかかりながら拓海を見ている姿は、明らかに不遜だったが。

「木崎と山岸。あの二人は有名だから、お前のそれは今さらの反応だな」
「そうなんですか……」

木崎は幼なじみの苗字だから、山岸というのが一緒にいた男子学生の事なのだろう。
二人の関係は、有名になるほどだったのだ。そう聞かされると、更にショックが重なる。

「で、どっちなんだ? こんな場所に忍び込むほど思い入れたのは」

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