寮に戻った拓海は、ソファーにぐったりと体を預けた。思っていたよりも、心身ともに疲れてしまっていたらしい。
まだ入学して間もないのに、ずいぶん濃い時間を過ごしているような気がする。

遥都は明日の準備のために、また生徒会室に戻ってしまった。
悠真には近付くなと言われたが、すでに拓海は知り合いになっている。
部屋に来ていることは言えないけれど、せめて遥都には悠真と偶然知り合ったことは伝えようと思っていた。結局、タイミングも悪かったのもあって、今となってはそれも言いづらくなってしまったのだけれど。

そんな時、来客を知らせる呼び鈴が鳴ったので、拓海は玄関に向かう。
以前、平木に確認してからドアを開けるように言われたので、相手を確認するとその平木本人だった。

「やあ」
「こんにちは」

相変わらず七三でワイシャツ姿の平木が、にこやかに挨拶する。
拓海が室内に迎えようとしたが、平木が遠慮したので玄関内に入ってもらった。

「君の噂を聞いたよ」
「噂、ですか」
「すぐにでも親衛隊ができるかもしれないじゃないか」
「まさか……」

それはないと自信を持って言えるが、平木は首を横に振った。

「僕はこの学園で、男を惹き付ける魔性のような生徒を二人知っている」
「はあ」

突然話の内容が変わって、拓海は戸惑うように相づちを打つ。

「一人は生徒会長である中瀬悠真。もう一人は、山岸和葉だ。会長については言わずもがなだろう。そこで山岸和葉についてなんだが、彼は君と共通点がある」
「ええっ、そうですか?」

そう言えば、常磐にも似たようなことを言われた。
本当にあの和葉と共通点があるのだろうか。もしあったとしても、複雑な気持ちになりそうだ。

「男は誰もがマザコンだと言われているね。広い心ですべてを受け止めてくれる存在に心惹かれるんだよ。自分を受け入れてもらうことで不安を解消し、自信をつける。そんな存在が、家族と離れたこの学園にあったなら、必然的にみんなが求めてしまうものだと思わないかい?」
「うーん、そうかもしれませんね」
「そこで、その存在に脆い部分を見たなら、間違いなく男たちはその存在を守りたいと躍起になるはずだ。まさしく、山岸和葉はそれと言えよう。そうやって周囲の人間を虜にしていったんだ。そして、君にもその素質は充分にある。この学園の性質と親衛隊の存在だけではなく、ジャーナリストであるこの僕をもすんなりと受け入れていた。君のような子は、とても素敵だと思うよ」

そう言いながら、平木は拓海の両手を握ってきた。心なしか鼻息が荒いような気がする。
しかし、そんな平木は拓海を買い被っていると思う。拓海は自分の打算的な部分をよくわかっているつもりだった。

「ただ、山岸和葉と君とでは、決定的に異なるところがある」
「異なるところ?」
「そうだ。意図しつつ意識的にそう振る舞っているか、否か。その差はとても大きい。理解出来るかい?」
「……はい」

拓海が頷くと、手を握ったまま平木が近づいた。何となく後退りたくなるが、必死に耐える。

「君にはいつまでもそのままでいてほしい。これから一波乱あるかもしれない。もし、君に困ったことがあったなら、いつでも助けになろう。今日は君にそれを伝えたかったんだ。邪魔して悪かったね」

そう言って拓海の手を離した平木は、別れを告げると玄関から出て行った。
平木は、拓海が見間違えたと思った、あの怖い視線を持つ和葉のことを知っているのだろうか。もしそうだったなら、予言のように言っていた波乱のことが気になった。

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