「本当に牽制のつもりだったんだろうな」

蓮が胡散臭そうな目で水島を見る。そんな視線を軽く受け流して、水島は肩を竦めた。

「当然でしょー」
「血迷ったりするなよ」

蓮が念を押すように言っているのが聞こえたが、水島に限ってそんなことにはならないだろう。
そう考えながら、拓海が先を歩く二人の後ろをついて行くと、誰かが脇を通り越して行った。

「あれ?」

拓海を追い越したのは和葉だった。小走りに水島に駆け寄り、水島の前に行くと「こんにちは!」と元気に挨拶をしながら立ち止まった。
和葉が飛び出てきたために水島の足も止まり、微かに蓮が舌打ちしたのが聞こえた。

後から来ていた森崎は、少し距離を置いた場所から和葉を見守っている。

「ねえ、今からお昼?」
「まあ、そうですけど」
「じゃあ、一緒に食べようよ。ダメ?」

和葉は、水島のブレザーの袖を握りながら、キラキラした瞳で懇願する。
可愛らしい仕草に、お願いされていない拓海でも思わず頷きたくなるが、水島は和葉を見たまま動きを止めていた。珍しく戸惑っているのかもしれない。

水島の隣にいた蓮が、そんな二人に割って入った。

「先輩すみません。俺達だけで話したいことがあるんで、遠慮してもらえませんか?」

すかさず和葉に告げると、和葉が掴んでいた方とは逆の腕を掴んで、水島を引っ張って歩きだしてしまった。

「あっ、待ってよ」
「和葉、邪魔をしてはいけませんよ」
「でも……」

様子を見ていた森崎が、なだめるように和葉の髪を撫でる。

傍にいたのに、拓海はすっかり蚊帳の外に追いやられてしまった。
拓海は、先に行ってしまった蓮たちを追う。その時、何気なく和葉を見た拓海の足が、縫い止められたように動かなくなった。
和葉が、とても怖い目で蓮の後ろ姿を見ていたからだ。

見間違えたのだろうか。そう思って瞬きすると、和葉は森崎に促されて、後ろを向いて歩き出しているところだった。

和葉の肩を抱いていた森崎が、ちらりと振り返る。
呆然としていた拓海と視線が合った。
森崎はそれからすぐに正面を向くと、和葉と共に歩いて行ってしまった。

「な、なんだったんだ……」


◇◇◇


食堂の入口で拓海を待っていた蓮が、申し訳なさそうな顔をしていた。

「置いてきてごめん」
「ううん、大丈夫だよ。それで、さっきのことなんだけど……」

和葉のあの視線が気になる。いつも明るい表情ばかり目にしていたため、余計に印象的だった。
それをどう伝えるべきか思案していると、水島が溜息混じりに口を開いた。

「ホント、余計に目の敵にされてるし」
「はあ? 元はといえば、お前があいつにロックオンされるからだろうが」
「ああ、山岸先輩の好みだったみたいだね、俺」
「わかってるなら、もう俺たちには近付かないでくれ」
「別にいいけど。でも、藤沢とは離れられないんだよね」

また二人の言い合いが始まってしまった。

「拓海、何やってるの?」
「あっ、遥都」

そんな時、食堂に来た遥都が通りかかった。
蓮と水島は、遥都の姿を見ると二人そろって口をつぐんだ。

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