拓海は、水島と共に教室から食堂に向かって歩いていた。
そんな拓海の表情は、入学式の朝とは打って変わり、今日の花曇りの空のように沈んでいる。

登校前、拓海が寮のメールボックスを覗くと、綺麗な和紙でラッピングされた柚子胡椒味の煎餅が入っていたのだ。さらに、登校すれば、下駄箱に白ゆりの花束が置かれていた。
昨日の今日で、早速嫌がらせが始まったのかと憂うつになる。

「白ゆりは綺麗だったし、高級そうなお煎餅だったけど、もらう理由がわからないから」
「それで嫌がらせだと思ったんだ」

お金持ちは嫌がらせにもお金をかけるものなのだろうか。
白ゆりは枯れると可哀想なので、拓海の教室に生けてある。

「常磐先輩が白ゆりって言っちゃったからね」
「うん」
「常磐先輩のあれって、副会長と同じ手法だったんだよな。副会長は篠宮を悪意で潰そうとしたけど、常磐先輩はその逆ね」
「逆?」
「そ。木崎先輩の幼なじみはちょっとおとぼけな人ですよーって、アピールしてたように見えたけど」
「うっ、ひどい」
「冗談だって。とにかく、藤沢は木崎先輩の害にはならなくて、それどころかとっても大切な友人ですって思いっきり宣伝してたんじゃん」
「……そうだったの? ものすごく居たたまれない雰囲気だったけど」
「常磐先輩のお眼鏡に適うようなら、いじめどころか制裁もないだろうし。まあ、よかったんじゃない?」

相変わらず他人事のような水島だが、何だかんだ言っても拓海の心配事を晴らしてくれたようだ。
いつも飄々としているけど、やっぱり水島はいい人だと思う。

「でも何で花なんかくれたんだろう」
「昨日のあれで、あんたのファンでもできたんじゃないの?」
「ファン? まさか。あんなんでファンが出来るとは思えないけど」

拓海が聞き返すと、水島は軽く肩を竦めた。

水島が言うには、中学でも倉林の人気の噂を耳にしていたらしい。しかし最近では、和葉の一件で倉林に対する意識も変わってしまった生徒もいる。
そんな生徒が、拓海が倉林の企みを阻止したのに気付き、それを称讃する意味であんなプレゼントをしたのではないかと話してくれた。

「でも、中途半端に注目浴びて、その当人がボケッとしてると痛い目にあうよ」
「やっぱり、嫌がらせ……」
「そうじゃなくて、飢えた狼には要注意してほしいの。あんたに何かあったら、俺が常磐先輩に抹殺されるからね」
「飢えた狼ね……」

さすがに、そんなことにはそうそうならないと思う。
漠然とそう考えていた拓海の腰に、水島の腕が回った。

「うわっ」

勢いよく引き寄せられて、水島と向き合うような体勢になる。
笑いながら、驚いている拓海を水島が見下ろしていた。

「油断大敵でーす。飢えた狼に丸呑みされちゃうよ」

水島がからかうように言う。
あっさり引き寄せられたけど、それは相手が水島だったからだ。

「俺にはおっぱいはありませーん。だから今すぐ離してほしいんだけど」
「どうしよっかなー。ついでに牽制しとこう。あんたのにわかファンにね」

水島も色々と考えてくれているらしい。
ただ、イケメンなのはいただけない。綺麗な二重の目で、間近で見るのはやめてほしかった。

「……何やってんだ、お前ら」

廊下でくっついていた拓海たちに、蓮の呆れたような声がかけられた。

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