1失恋した時に自分を慰めてくれたのは、見たこともないほどの美男子だった。
◇◇◇
藤沢拓海がこっそり訪れた学園は、噂に違わず煌びやかな場所だった。
校門を何食わぬ顔ですり抜け、広い敷地内を校舎と思しき建物に向かって進む。遠くから部活動らしき掛け声も聞こえるが、途中で誰にも出会わないのは、冬休み中だからだろう。
それにしても広い。ずいぶんと離れた所に見える校舎まで、拓海はひたすら歩いていた。
道から反れてもただ真っすぐ校舎に向かって進む。しかし、しばらくすると生い茂った木々が目の前に広がり、拓海の行く手を阻んだ。
「どうしよう。今さら戻りたくないし……」
この林らしき場所の向こうが校舎のはずだ。整えられた道に戻るより、ここを突っ切ってしまった方が早い。それに、こちらを行く方が学園の人間と出会う可能性も低いだろう。
校舎は木の影になって見えなくなってしまうため、太陽の位置で方角を確かめながら進むことにした。
そうやって歩いていると、前方から話し声が聞こえてくる。
見られてしまうのは不味いので、拓海は咄嗟に身を隠したのだが、聞こえてきたその声は、拓海の耳によく馴染んだものだった。
木の影からそっと覗き込む。案の定、そこにいたのは拓海が大好きな幼なじみだった。
幼なじみは彼よりも背の低い男子生徒と一緒で、二人の距離の近さに、拓海は嫌な予感を覚える。
「かずは」
幼なじみから甘い響きが零れ、一緒にいた男子生徒を抱き寄せた。
よりによって、拓海は最悪な場面を目撃してしまったらしい。
自分の顔から、みるみる血の気が引いていくのがわかる。甘い雰囲気の二人を見ていたくなくて、拓海はその場から踵を返した。
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