25

恋より友情の方がいいということなのだろうか。
そう思うほど、和葉への想いが実らないことが辛かったのだろうか。
遥都が一緒にいたいと言ってくれたのは嬉しかったけれど、拓海は複雑な思いを持て余していた。

拓海に吐露した遥都は、何か思い詰めているようにも見えて、そんな遥都に胸が痛んだけれど、拓海はただ傍にいて慰めることしかできない。
しかし、傍にいたくても、肝心の遥都はしばらくすると帰ってしまった。以前と違い、忙しい遥都とは僅かな時間しか一緒にいられないのだ。

「……はあ」

キッチンで夕食に使うエリンギを裂きながら、拓海は溜息をつく。
遥都の明るい笑顔が曇ってしまわないか、心配だった。

「おい」
「うわっ!!」

突然近くで声がして、拓海は驚いて声をあげてしまった。
振り返ると、制服を着くずしたオフモードの悠真が、拓海のすぐ後ろに立っている。
いつ来ていたのか、まったく気が付かなかった。

「ぼんやりに磨きがかかってるな。ノックもしたし、何度も呼んだんだが」
「うわ、全然気付きませんでした。ごめんなさい」
「くれぐれも外ではぼんやりするなよ。ところで、そんなに茸を細くしてどうするつもりだ?」
「あっ、やりすぎた……」

悠真に言われてボウルの中を見ると、半分くらいでいい量のエリンギを全部、それもかなり細かく裂いてしまっていた。
考え事をしていたために、やりすぎてしまったらしい。

「キノコパスタを作るつもりだったんですけど……。先輩も食べませんか? 美味しそうな柚子胡椒をもらったんで、パスタに和えようと思って」
「へえ」

悠真が手を伸ばし、置いてあった柚子胡椒の小ビンを掴むと、それを無表情で眺めた。

拓海は二人分のパスタを用意しようと戸棚の前に立つ。
すると、不意に悠真が近づき、背後から拓海を囲うように戸棚に手をついた。

「他の男にもらったものを俺に食べさせるのか?」
「……うひゃっ!」

耳元で囁かれて、思わず変な声が出てしまう。
おまけに、すぐ真後ろに悠真の息遣いを感じて、拓海は身動きが出来なくなってしまった。
悠真の体温が伝わってきそうで、鼓動が音を立てて早まる。

「ゆ……、悠真先輩」

喉を振り絞って声を出すと、悠真は拓海からあっさりと離れていった。

「新婚ごっこをするんじゃないのか?」
「ち、違いますよ。誰がそんなことするんですか」

片手で小ビンを弄びながら、なんて事もないように言う悠真に、拓海は溜息をつきたくなった。拓海自身も、あの小ビンのように弄ばれているような気がする。

しかも、どうしてかこんなに心臓が早鐘を打って、自分でも驚くくらいに動揺してしまった。
何だか悔しくて、全ては悠真が美男子なのが悪いんだと、拓海は開き直って自分を納得させた。

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