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再び、食堂内が騒つき始めた。
そんな中で、拓海を呼ぶ遥都の声が聞こえてくる。

「……遥都?」
「拓海!」

遥都が、食堂の入り口から一直線に拓海のもとへやってくるのが見えた。その後ろには常磐の姿まである。

眩しい笑顔で歩く遥都は、生徒たちの注目を一身に集めていた。
そんな遥都が拓海の傍に立つ。拓海はまたもや痛いほどの視線を感じたが、遥都の笑顔に微笑み返した。

「拓海、これ」

そう言って遥都がテーブルに乗せたのは、柚子胡椒だった。
それを見た水島が吹き出したが、拓海は遥都がこれを持っていたことに驚いていた。

「どうしてこれを?」
「これが食べたかったんでしょう。もう食事は終わっちゃったの?」
「うん、そうなんだ。でもありがとう」

次から使ってと言われたので、拓海は遥都から柚子胡椒の小さなビンを受け取った。
周囲の視線が気になるが、拓海は遥都の好意を無下にできなかった。

「遠慮なさらず、これからも木崎さんにお願いすればいいんですよ。木崎さんのご友人は、清楚で控え目な、まるで白ゆりのような方なんですね」
「……は、え?」

何かの聞き間違いだろうか。ビンを握り締めたまま常磐を見上げると、ふんわりと微笑まれた。

「そうだろう。拓海は自慢の親友なんだ」
「素敵な方で羨ましいです」
「拓海、食事が終わったなら行こう。僕ももう食べちゃったし、久しぶりにゆっくり話そうよ」
「う、うん、行く」

よく分からないこの状況が、物凄く居たたまれない。一刻も早く逃れたかった拓海は、遥都の提案に一も二もなく頷いた。


◇◇◇


それから水島と別れた拓海は、遥都と常磐を部屋に招いていた。
用意した紅茶をソファーの前のローテーブルに置くと、遥都の隣に座るように促される。

「学園はどう?」
「うん、何だか驚かされることが多いけど、楽しいよ。友達もできたし」
「篠宮君だったよね。食堂でのことを聞いたよ」
「えっ、耳に入るの早すぎるよ」

きっと、物凄い早さで食堂での一連の出来事が噂になっているのだろう。あのメンバーであれだけ騒いでいたら仕方ないのかもしれない。

「あそこに親衛隊の子が居合わせていたんだ」
「だから凄いタイミングであれを持ってきてくれたのか。それにしても、いつ用意したの?」
「たまたまかな。それにしても、副会長が迷惑かけてしまってごめん」
「遥都が謝ることじゃないよ。ただ、蓮が絡まれた理由がわからなくて。遥都は何か知ってる?」
「多分、会長ファンの子たちを煽りたかったんじゃないかな」
「そうでしょうね。ですが、この一件で会長ファンに動きはないようです。藤沢君の機転が功を奏したようですね」

拓海たちの向かいに座っていた常磐が、落ち着いた口調で口を開いた。
ファンに動きがないってどうやって調べたのだろう。どういった仕組みになっているのかわからないが、親衛隊の情報網は物凄いようだ。

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