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和葉達が行ってしまった後は、嵐が去った後のようだった。
あんなにまくし立てたのは久しぶりで、拓海は一気に脱力してしまう。

「悪い、拓海」
「ううん。俺も出しゃばってごめん。あの人がわざとやってるように見えて、ついね」
「それでつい柚子胡椒か。すっとぼけっぷりはあんたらしいけど、意外と熱血だったんだ」
「柚子胡椒はたまたま欲しいって思ってただけなんだけどね。でも、なんであの人は、蓮にあんなことしたんだろう。どう見てもわざとだったよね」

拓海が疑問を口にすると、蓮は顔をしかめながら大きな溜息をついた。

「実は春休み前に、会長に気があるのかって、あいつらに因縁つけられてたんだよな。その時は丸く収まったと思ってたんだけど、あいつはしつこかったみたいだ」
「単に篠宮がぬるかっただけなんじゃないの?」
「わかってる。拓海達に迷惑をかけないから。俺、付き合ってる子いるんだ。その子との結婚が認められれば、あいつらも納得するだろ」
「うわ、もう結婚とかって、人生早々に終わらせてどうすんの?」
「うるせーよ。お前は結婚できなそうだな」
「そんなに急いてするつもりはないね」

気付くと蓮と水島の言い合いが始まっている。根本的に二人は考え方が違うのだろうけど、二人と友人でいたい拓海は、この先が少し心配になった。

「結婚かあ。蓮は、その子のことが本当に好きなんだね」
「ああ。俺、小学校は普通の市立に行ってたんだけど、その頃から仲良くしてたんだ」
「そうなんだ」

気恥ずかしそうにしながらも、彼女のことを話す蓮は幸せそうだ。
小学生の頃から、きっとお互いの絆を大切にしてきたのだろう。拓海と遥都は友情で繋がっているつもりだけど、そんな蓮を羨ましく思う。

「でも、なんで蓮が会長と関わると駄目なんだろ。さっきの人は会長の親衛隊なのかな?」
「違うよ。あいつらは山岸にベタ惚れだ。山岸に害があれば、平気で潰しにかかる。これまでに、何人か転校させられたって噂も聞いたことがある」
「恋は盲目ってやつだね。あの人たちは、山岸先輩しか見えてない」
「じゃあ、どうして会長が関わってくるんだ?」

拓海が尋ねると、頬杖をついた水島が含んだような笑みを浮かべた。

「山岸先輩が大好きらしいよ。会長のことをね」
「ええっ!!」

思わず大きな声を出してしまい、拓海は両手で自分の口を押さえる。
そんな拓海の様子を水島がじっと見ていた。彼は拓海と悠真が顔見知りだと知っているから、拓海の反応を楽しんでいるのかもしれない。
けれど、拓海は別の理由から動揺していた。和葉が悠真のことが好きだと、悠真自身は知っていたのだろうか。それに和葉を想う遥都はどうなるのだろう。
ショックな上に頭の中も混乱してしまうが、二人には話すことではないので、拓海は平静を装った。

「拓海、大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫。じゃあ、山岸先輩と一緒にいる人たちは、それを知ってて一緒にいるんだ」
「そう。会長は誰のものにもならないって宣言してるからね。可愛い山岸先輩がいくらアタックしてもなびかない。あの人たちは、それが分かってるんだ」
「そうだったんだ……」
「だから、山岸の恋敵を山岸のために排除する。馬鹿なやつらだよ」

溜息まじりの蓮の言葉が重く聞こえる。
彼らは、内心では悠真に誰かと結ばれて欲しいと思っているかもしれない。けれどそんなことも出来ずに、和葉のために他の生徒を貶めているのだ。

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