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それから拓海は、水島と少し遅れて教室に戻り、クラスごとのオリエンテーションの後は授業もなかったので、寮の部屋へと帰ってきていた。

拓海はベッドに腰掛けると、ちょうど目の前にあるドアを見つめた。
何か役職を持っているだろうとは思っていたが、悠真は学園の代表である生徒会長だった。それは、彼のような男ならもちろん納得できるけど、何も知らなかった時より遠い存在のように感じてしまうのも確かだ。
常磐も、混乱していた学園をまとめた生徒会長を敬っているような口振りだったし、そんな悠真だからこそ、生徒からの人気も高いのだろう。

そんなことを考えていると、カチャリと小さな音がするのが聞こえた。
それから目の前の扉がゆっくりと開くので、拓海は思わず立ち上がる。

「今日はわざわざお出迎えか」

部屋に入ってきた悠真が、ドアの前に立っていた拓海を見て口の端を上げて笑った。

「先輩、せめてノックはしてください」
「他に誰かいれば入らないから安心しろ」
「……俺がいるんですけど」

そう文句を言いながら、拓海はリビングのソファーに向かう悠真の後を追う。
そのままお茶を淹れに行こうとすると引き留められたので、ゆったりとソファーに座る悠真を見ながら、複雑な気持ちになっていた。

「今日は驚きました。先輩、オンとオフとでは違うみたいですし」

拓海は悠真の向かいに座りながら、ブレザーは無く、ネクタイも緩められている彼の姿を見た。先ほどのきっちりしていた優等生然とした姿も、どちらも悠真らしく見えるのが不思議だった。

「拓海に最初に会ったのがあんな姿だったから、今さら取り繕ったところで仕方がないだろ」
「そうですけど」
「俺が裸踊りしようが幻滅はしない」
「いや、さすがにそれは引きますけど、若さゆえってやつだと思うかも」
「だろ。拓海がここに来たのは偶然じゃない。あの扉の鍵を開けられるのは俺だけだ。だからこの部屋は特別な場所になる」
「偶然じゃないって、先輩が決めたってことですか?」
「そうだ」

悠真は何でもないように言ったが、拓海は事実を知って驚きを隠せない。
でも、悠真の寛いだ様子を見て思う。普段、彼は周囲にはあの生徒会長の姿しか見せていないのかもしれない。
そうだったなら、親衛隊でも何でもない外部入学の拓海となら、悠真も気兼ねなく過ごせるのだろう。悠真にだって一人でいたくない時や、誰かに話を聞いてもらいたい時だってあるはずだ。

「だったら、先輩の愚痴でも何でも聞いてあげますよ。ただし、入る時はノックして下さいね」
「有り難いな。俺が会長でも嫌じゃないのか?」
「そりゃ最初は驚かされましたけど。全てが完璧に見えたし。でも、先輩だってまだ高校生だったんだなって、今話してて思ったんです。俺で良かったら普通にお付き合いしますよ」
「そうか」

そう言った悠真が笑う。
こんなふうに時々見せる柔らかい笑顔が、拓海は好きだった。
彼の重責は拓海には計り知れない。だからこそ、少しでも役に立ちたいと思う。

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