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入学式の舞台なのだから当前だけど、普段拓海に見せるような雰囲気と違って、悠真の厳粛な態度は、彼を有能な男に見せていた。
自分とは住む世界が違う、そんな言葉が拓海の脳裏をよぎる。

『桐條学園生としての誇りを持ち、実りある三年間を過ごされることを願います。これをもって、歓迎の言葉といたします』

挨拶を締めくくる姿を感嘆しながら見上げていると、不意に舞台上の悠真と視線が合ったような気がした。

『……入学してくるの、待ってたぜ』

どきり、と拓海の胸がなった。
悠真の台詞と微かに見せた笑顔に、周囲からひときわ高い歓声が上がり、拓海ははっとして我に返る。
どこかのアイドルのコンサートかと思うくらいに、生徒達の反応はもの凄かった。
けれど、拓海と新入生を混乱に陥らせた当の本人は、颯爽と舞台から去っていく。

「今、僕のこと見てたよね」
「何言ってんの、俺だって」
「違うよ!」

そんなやり取りも聞こえてくる。
拓海は悠真と目が合ったように感じたけれど、そんな自分の勘違いを恥ずかしく思った。

『静粛に願います』

さすがに森崎の注意が入る。それから静かになったものの、浮ついたような雰囲気は戻らなかった。
結局そのまま職員紹介を終えて、閉式宣言を迎えた。
悠真の言葉と仕草一つで、生徒達の雰囲気をここまで変えてしまったのだ。


◇◇◇


「中瀬先輩、素敵だったねーっ」
「そうだね」

入学式から退場し、教室に向かっている途中で、橋本が興奮ぎみに話しかけてきた。
台詞と共に変わる表情は、彼が素直な性格であると感じさせて可愛らしいと思う。

「でも、いくら格好良くても、中瀬先輩は駄目なんだからね」
「え、何が?」
「学園一いや、世界一素敵な人なんだよー。誰のものにもならないんだから」
「ああ、そうなんだ」

それはわかるような気がする。
あれだけ生徒達の好意を集める悠真が誰かと結ばれることになったら、それこそ大混乱が起こりそうだ。
しかし、悠真だって好きな人がいるかもしれないし、そしたらその人と付き合いたいと思うのは自然だろう。そう考えると、人気者と呼ばれる人たちが気の毒に思えた。

「藤沢君は木崎先輩と幼なじみなんでしょ。羨ましいな」
「どうして知ってるの?」
「その噂で持ちきりだよー。みんなだって、さっきからチラチラ見てるでしょ」

昨日の今日で持ちきりになってしまっていたらしい。
そう言えば何となく視線を感じていたけど、それは外部入学の拓海が珍しいせいだと思っていた。

「何か、いろいろ怖くなってきたな……」
「あんたが物珍しいだけだし」
「きゃっ、水島君!」

いつの間にかそばにいた水島が、拓海に話しかけてくる。すると、橋本が少女のような反応をした。

「ぼ、僕は先に行ってるねー」

顔を赤くさせた橋本は、そのまま駆け出してしまった。

「……もしかして、水島君嫌われてる?」
「俺が眩しすぎただけだし」
「あ、そう」

反論する要素が特にないのが悔しい。

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