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拓海は、もう一度把手を動かしてみたが、やはりびくとも動かなかった。

ドアの構造がどうなっているのか不思議だけど、悠真はなぜ、わざわざこのドアを使って帰って行ったのだろう。
考えられるのは、悠真にも親衛隊がいて、拓海の部屋に出入りするのを隠すためだったのかもしれない。あれだけの男なら、学園での人気だって相当なものだろう。

「でもなぁ……」

たまたま、この部屋にあのドアがあったから、悠真はそれを使ったのだろうか。
それともこの階ではそれが普通なのだろうか。

考えれば考えただけ分からなくなってきた。
拓海はソファーに戻ると、残っていたケーキを口に入れた。

「やっぱり美味しい」

一人で食べるには量が多いから、後で蓮に声をかけてみよう。
男相手にケーキワンホールはどうかと思うが、祝ってくれた悠真の気持ちは嬉しかった。


◇◇◇


「蓮、甘いもの食べられる?」
「うん、食べる」

あれから拓海は、ケーキを持って蓮の部屋の前にいた。
せっかくだから、なるべく美味しいうちに渡そうと思ったのと、蓮の話も聞きたかったからだ。

「あがりなよ」
「ありがとう。でも片付けがまだ終わってないから、また今度にするよ。これ、よかったら食べて」
「お、うまそう。サンキュー」

にっこりと笑った蓮は、やっぱり可愛い顔立ちをしている。茶色っぽいふわふわの髪同様に、大きめな瞳も茶色で柔らかい雰囲気だ。

「あのさ、部屋にドアっていくつある?」
「ドア? 何で」
「えーっと、何となく」

悠真に『他言無用』と言われたし、もし拓海の部屋にしかないものだったら説明しようがないので、蓮には単純にドアの数を尋ねてみた。

「玄関とトイレと洗面所と風呂と寝室だから、五つだな。多分ここの階はみんな構造は一緒じゃないか」
「そっか。寝室に余分にドアはないのか……」
「窓ならあるけど」
「うん、ありがとう」

あのドアは、拓海の部屋にしかないものだったらしい。
それにしても、拓海のおかしな質問に答えてくれた蓮は、とてもいい人だ。

「夕飯、新入生は食堂に五時半だって。また寝ちゃうなよ」
「もう大丈夫だって」

それから蓮と別れて、拓海は部屋に戻った。
また悠真に会えたら、その時にドアのことを尋ねてみよう。そう考えながら、片付けを再開した。

クローゼットに仕舞った制服を見て、拓海は常磐から聞いた話を思い出す。
自分がやって行けるか不安な部分が大きいけれど、せっかくの高校生活なのだから、たくさん楽しみたい。
入学式はいよいよ明日だ。

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