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テーブルの箱を開けると、中にはショートケーキがワンホール。苺とバニラの甘い香りをほんのりと漂わせていた。

取り敢えず、お茶の用意をしようと拓海はキッチンに立った。キッチンにはティーポットやコーヒーサーバーまであったが、サーバーは難しいので、紅茶を用意する事にした。

「お待たせしました。キッチンも何でも揃ってて凄いですね」

優雅にソファーに座る悠真の前に、切り分けたケーキとティーカップを置く。
キッチンには大体の食器類や家電が既に揃えられていて、拓海が興奮したように言えば悠真は満足げにうなずいた。

「お前の特権だな」
「俺の? ああ、特待生だからって事ですね」

そう拓海が言うと、悠真は黙ったまま口元の笑みを深めた。

「悠真先輩、おかげさまで無事に合格しました」
「お前の実力だろ。ま、合格できてよかったな」
「はい。特待生にもなれたし、母も喜んでいました」
「そうか」
「あっ、ケーキ美味しい」

甘過ぎない生クリームにふわふわのスポンジ。全体的に高級感の漂うショートケーキは、口に入れても上品な味がする。
きっとそれなりの金額なんだろうと思いながら、拓海はチラリと目の前で紅茶を飲む悠真を見た。
伏せぎみの長い睫毛が、白皙に影を落としている。やっぱり何度見ても目に眩しい男だった。

「何だ?」
「あ、ケーキありがとうございます」
「それ、全部食べていいぞ」
「ええっ、全部?」
「そろそろ仕事に戻る。縛り付けてきた部下達に、また仕事放棄されると困るからな」

悠真が立ち上がったので、拓海も見送るつもりで慌てて立ち上がった。

「ケーキご馳走様でした。忙しかったのに、わざわざありがとうございます」
「いや。お前の寝顔を見てたら時間がなくなっただけだ」
「ん? 見てた?」

そう言いながら、悠真は何故か拓海のベッドルームのドアを開けた。
何となく恥ずかしい事を言われた気がするが、ベッドルームに入って行く悠真を見て拓海は我に返る。

「悠真先輩、玄関はそっちじゃないです」
「俺のはここだ」

そう言いながら悠真が開けたのは、ベッドルームにあった開かずの扉だったはずのドアだった。

「ええーっ! 何、何で?」
「他言無用だからな」

悠真は不敵とも思える笑顔を拓海に向けると、ドアを潜って行ってしまった。
バタンと音をたてて扉が閉まる。

「ゆ、悠真先輩?」

確かに、この向こう側は外になっているはずなのに。
悠真が行ってしまったドアの把手に触れてみるが、何故かびくとも動かない。

「……どうなってんだ」

一人になった部屋に、拓海の呆然とした呟きが響いた。

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