「外部入学だよな。いきなり変なのに絡まれて大丈夫だったか?」

小柄な生徒が拓海に尋ねてきた。
顔見知りの先輩に対して、中々な物言いをするらしい。色素の薄い柔らかそうなねこっ毛のせいか、見た目はふわふわしているイメージだけど、はっきりしている性格のようだ。

「大丈夫です」
「敬語はなしな。俺も一年だし、特待生だからこの階なんだ」
「そうなんだ、よろしく。俺は藤沢拓海」
「篠宮蓮。蓮でいいよ。拓海でいいかな?」
「うん」

拓海は笑顔で頷いた。
気さくで話しやすい人だ。
彼のような生徒が同じ特待生なのは心強い。

それから、互いに部屋の片付けが残っているので、また会う約束をして別れた。
学園はほとんどが内部進学だと聞いて、集団の中に一人放り込まれるような不安があったけれど、蓮のおかげで何とか大丈夫そうだ。


再び部屋の片付けを始めると、次は拓海の携帯が鳴った。
今度こそ遥都からのものだったが、仕事から手が離せなくなり拓海の部屋に来られないといった内容だった。

「あーあ」

通話を終えた携帯を投げ出して、リビングのソファーに座る。体が沈み込むくらい柔らかい。こんなソファーに座るのは初めてだった。
ここは、拓海にとって何もかもが煌びやかに見える。

「やっぱり、場違いだったかなぁ」

拓海の溜め息が虚しく響く。
今ごろ、遥都は和葉と一緒にいるのだろうか。
諦めるつもりでも、やっぱり実際に会うと気になって、思考がそちらに向かってしまう。

「あー、ダメダメ!」

首を振って、考えるのを止める。
この学園に来たことを後悔したくない。あの時の悠真との出会いは、拓海にとって特別だったから。
こんなにうだうだ悩んでいる姿を見られたら、またダメ出しされてしまうだろう。

拓海は腕に着けたシンプルな時計を見た。クリスマスイブに突然現れた悠真に渡されたものだ。
今度はいつ会えるだろうか。


◇◇◇


誰かに頭を撫でられていた。
人の気配を感じて、拓海は自分がうたた寝していた事にぼんやりと気付く。

「……母さん?」
「ソファーで猫みたいに丸まってるかと思えば、早速ホームシックか」
「うわっ!」

男の声がして、一気に覚醒した。
拓海が飛び起きると、何故か悠真がソファーでくつろいだ様子で座っていた。
まるで悠真の部屋のようだが、ここは拓海の部屋だったはずだ。

「えっ、あれ?」
「入学祝い、持ってきてやったぞ」

そう言って、悠真がテーブルを指差す。そこにはケーキの箱らしきものが置いてあるが、ワンホールもあるような大きなものだった。

「……ありがとうございます」

どうもこの男は、神出鬼没のようだ。

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