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「嫌な思いをさせて悪かった」
「いいえ、先輩は悪くないです」
「俺の人選に問題があったんだ。守ると言ったのに、俺もまだまだだな」

そう言って苦く笑う悠真に、拓海は胸が詰まる思いがした。
誰だってすべてを完璧にこなすのは難しいのに、悠真は少しもミスをおかせない立場にいるし、悠真自らも、当然のようにそうあるべきだとしているように見える。

「先輩は凄すぎるから、そんなことは気になりません。失敗ばっかりする俺が言うのもなんですけど……」
「いや。ありがとう」

柔らかく笑う悠真につられて、拓海もゆるく微笑んだ。

「やっぱり、拓海がいないと駄目だな」
「えっ、何がですか?」
「今日、拓海がいなくなってから、仕事が億劫に感じてな。俺の弱音も余裕で受け入れる拓海がそばにいるだけで、違うらしい」
「先輩……」
「だから、早く元気になって、帰ってこい」
「はい、わかりました」

悠真はズルいと思う。いや、これが悠真の魔性パワーなのだろうか。
そんなふうに言われたら、誰に何と言われようと、頑張って会長補佐の仕事を貫きたいと思う。

それに、ものすごく身体中が熱くなっているのは、絶対に熱のせいだけじゃない。
拓海は今すぐ、布団を頭からかぶってしまいたかった。

拓海のやる気を出すための言葉だったのかもしれないけど、悠真に頼られてとても幸せだと感じている。
確実に、自分は悠真に想いを寄せ始めていると、拓海は自覚した。
もちろん、これが前途多難な恋であるということも。





◇◇◇





「もう、おしまいだ……」
「アキラ、大丈夫? 今のアキラを見てるのは辛いよ」
「和葉、助けて。せっかく今まで励ましてもらったのに、会長に嫌われちゃった。どうしたらいい? もうわからないよ」

桧山と和葉は、お互いに会長補佐を目指していたが、それとは別に、桧山は和葉のことが好きで大切だった。
同じ目標を持っていることで、余計に和葉を意識して近くにいるつもりでいた。

それなのに、桧山は拓海への嫌がらせが明るみになり、生徒会補佐を降ろされてしまった。
尊敬し、憧れて止まない中瀬悠真のために、これまで一途に頑張ってきたつもりだったのに、すべてが無駄になったのだ。

「可哀想に……。アキラは頑張ってたのにね。ぼくはよく知ってるよ」
「和葉! あぁ、和葉。僕にはもう和葉しかいないよ」

和葉に抱きついた桧山を受け止めた和葉は、優しくその背中を撫でる。

「きっと、みんなあの人に騙されてるんじゃないかな?」
「……藤沢拓海」
「そうだよ。だってアキラは頑張ってたもん。ぼくもユウマを取られて、凄く悲しい」

そうだ、許さない。
桧山がこうなったのも、和葉が悲しんでいるのも、すべてあいつが元凶だ。
どす黒い感情が、桧山の心に沸き上がる。

会長だけじゃない、副会長も書記もあの藤沢を庇っていた。
一緒に仕事をしていた時間は桧山の方が長かったし、作ったお菓子もみんなが美味しいと言って喜んでいた。
和葉が言うように、あいつがみんなをいいようにしているに違いない。

「アキラは、ぼくのそばにいながら、元気になるといいよ」
「うん、ありがとう。好きだよ和葉」

優しい和葉がいてくれれば、すぐに立ち直れるかもしれない。
そして、早く元気になって、生徒会のみんなをあいつから解放しなければ。
そうして、桧山が敬愛し、和葉が愛する会長を取り戻さなければならない。

「そういえば、アキラが抜けて、聖蘭のお仕事は大丈夫なのかなぁ?」
「聖蘭? ああ、そうだった。凄く心配だ」

もうすぐ、聖蘭の生徒会と会議を持つという話が出ていた。
女っ気のないこの学園に、聖蘭の生徒が来るのも大変だし、その逆も同じようなものだ。
いずれにせよ、生徒会は神経を遣わなくてはならない。何かあれば、それは一大事になるだろう。

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