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秀吾が現れたとたん、虐めっ子と思しき生徒達は一斉にいなくなってしまった。

伊吹は秀吾の存在の大きさを改めて実感していた。
しかし、どうしてタイミング良くこの場に現れたのか疑問に思う。

「ずっと後ろから追い掛けてたよ」

と、不思議そうな伊吹の様子に気付いた秀吾が、そう説明した。
必死に秀吾から逃げていたのに、必死過ぎて秀吾がいたことにも気付かなかったらしい。

間抜けな自分に伊吹が落ち込みかけていると、秀吾が床に落ちていたカメラを拾って、虐められていた生徒に手渡した。

「はい」
「……どうも」
「確か、谷中君だったよね」

秀吾に谷中と呼ばれた生徒は、顔を上げてほんのりと顔を紅潮させた。

「僕のこと知ってるの?」
「写真、コンクールで入賞してたよな。凄いなって思ってたから」

(……秀吾君!!)

頑張ってる生徒をちゃんと見ている秀吾だって凄いと伊吹は思う。

(さっきは悲しかったけど、だからって逃げてないで今は秀吾君が生徒会長になることを考えなきゃ。……それにしても、谷中君嬉しそうだし、何だか秀吾君に近くない?)

ぼやけているからそう見えるのだろうか。
伊吹が何度も瞬きをしていると、秀吾がこちらを見てすぐにそばに来た。

「目が痛いのか?」
「ううん。大丈夫だよ」
「そう? まだ本調子じゃないだろうから、寮に戻ろう」
「うん。あ、谷中君も一緒に……」

伊吹が谷中に声をかけると、彼はあからさまに顔を背けて、反対側のドアから出て行ってしまった。
どうも嫌われてしまったらしい。
落ち込む伊吹の顔を秀吾が覗き込んだ。

「俺と一緒に帰ろう」
「う、うん。いいの?」
「こんな状態のまま放っておけないよ」

目がおかしいなら手を繋ごうと言われて、伊吹の鼓動は高鳴る。だが、今の自分に優しくされるのは、やっぱり複雑だった。




とは言うものの、秀吾の隣を歩くのは久しぶりで、嬉しいやら恥ずかしいやらで秀吾を意識してしまう。
さすがに廊下で手は繋がなかったが、秀吾の体温が伝わりそうなほど、伊吹の近くにいてくれる。
伊吹がチラチラと隣を見ていると、秀吾と目が合ってしまい、条件反射のように視線をそらした。

「そう言えば、さっき君が気を失った後、風紀が来て騒がしいあいつらを引き取って行ったんだ。風紀も君を守るつもりでいるらしいな」
「そうだったんだ。安東君は風紀の人たちと帰ったんだね。
風紀の人たちは、守るって言うか、気にしてくれているみたい。迷惑をかけちゃってると思うけど、そういう事になってしまいました」

そんな話をしていると、廊下の向こうから大きな声が聞こえてきた。

「ナデシコ! ナデシコー!!」

なんだか見覚えのある外国人がいた。

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