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「あっ、それは、破棄するはずのリストを藤沢君が持って行ってしまったみたいで。本当はこっちのリストを持って行ってもらいたかったんですよ」

桧山が、手にしていたファイルを全員に示した。

「すみません、僕が早く気付いていれば……」
「そうですか」

うなだれる桧山を見て、森崎が頷く。

「見え透いた三文芝居ですね」

それから続けられた台詞に、桧山や遥都達が驚いたように顔を上げる。
先ほどから静かな悠真は、相変わらず傍観に徹していて、拓海は拓海で状況を把握するのに必死だった。

「モリリン、芝居って誰が……?」
「今の話だと、藤沢君が破棄するはずだったリストを誤って持って行ったように聞こえますが、違いますよね」
「えっ? ひーくんがこっちのリストを出したんじゃなかったっけ。ね、たっくん」

倉林に尋ねられて、拓海は首肯する。大切な資料もあるのだから、その辺りは慎重にしていたつもりだった。

「……あれ、そうでしたっけ? そんなことは無いと思います。倉林先輩も間違えているんじゃないですか?」
「えーっ? そ、そうだった?」

頼りない返事をする倉林を一瞥すると、森崎はその怜悧な視線を桧山へと向けた。

「せっせと手作りの菓子を差し入れしてアピールしていたようですが」
「突然何を言い出すんですか?」
「それで、会長の心が傾くと思いましたか」
「そ、そんなつもりじゃないです」

森崎の冷たい視線、それに悠真の視線を受けて、桧山の表情が見る間に赤らむ。

「だから、僕はそんなんじゃないですよ!」

否定していても、その必死な様子が、森崎が言っていることを肯定しているように見えた。

「藤沢君のパソコンを操作したのも、あなたですね。藤沢君を陥れたかったんですか?」
「違います!」
「否定しても無駄です。あなたのパソコンを調べさせていただきました。遠隔操作ですか。藤沢君のパソコンをフリーズさせたり、色々と小細工をしていたようですが……。どうせやるなら、もっと上手くやっていただけませんか?」

僕ならもっと上手くやりますよ、と続けた森崎に、拓海はそれだけはやめて欲しいと心の中で願った。

「モ、モリリン、怖いよー」
「冗談です。そんな下らないことはしませんよ。僕は、生徒会業務を滞らせるものが許せないんです。和葉に会う時間が減ってしまいますからね。そうでしょう、会長」

会長、と聞いて、桧山の肩が大きく震える。

「俺の補佐を陥れようとするのは、俺を貶めることと同じだ」
「だ、だって! こいつが悪いんだ!!」

突然怒りを顕にした桧山が、立ち上がって拓海を睨み付けた。
近くにいた遥都が、すかさず桧山を押さえる。

「落ち着け、桧山」
「こいつがいきなりしゃしゃり出て、会長補佐なんかになりやがって!」
「やめろ!」
「ひ、ひーくん、落ち着いて……」
「僕が、僕が会長のお世話をしたかったのに! 僕の方が相応しいのに……!!」

涙を流しながら、物凄い形相で睨まれる。

動けなくなっていた拓海に悠真が近づき、そのまま生徒会室から連れ出された。

「お前なんかいなければ……!」

扉が閉まる直前、桧山の叫びが聞こえた。

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