常磐が、昨年の出来事をかいつまんで拓海に聞かせてくれた。

事の起こりは二学期を過ぎた頃、ある生徒の転入だった。
彼は見るからに野暮ったい姿だったが、何故か人気のある生徒達から次々に好意を寄せられ始めた。
その影響で、まず人気のある生徒達のファンが荒れ始め、それを親衛隊が抑えた。しかし、転入生への執着ぶりに、次第に彼らの親衛隊自体が乱れ始めてしまったのだった。

「転校生の外見が外見だったせいもあって、嫉妬の渦が物凄かったんです。学園は滅茶苦茶になるところでした。何しろ転校生に夢中になっていたのは、生徒会の皆様を筆頭に風紀委員など、学園の顔となるような方々ばかりでしたので」
「え、生徒会の皆様って、もしかして遥都も?」
「幼なじみである藤沢さんには申し上げにくいのですが、そうなんです。実は、転校生は一時期学園の中学にいらした事があったようで、内部進学の皆様とは顔見知りだったんですね。先ほどいた可愛らしい方が、その転校生の正体です」
「もしかして、和葉って先輩ですか」
「ご存知でしたか?」
「いいえ。あの、たまたま名前だけ知ったんです」
「そうでしたか」

和葉は中学の時、他県の系列校にいたが、諸事情で遥都達の中学に転入してきたらしい。
そこであの可愛らしさから、生徒達を次々に虜にして行き、再び諸事情により元の中学へ戻ってしまった。
それから月日が流れ、高校生になると何故か変装して学園に転入。以前虜にしていた生徒達に変装を見破られ、結局また同じように好意を寄せられるようになる。

「彼が変装をやめて、風紀副委員長に就任してからは学園の混乱は落ち着きました。あのまま崩壊しなかったのは、ひとえに生徒会長の手腕とご尽力につきます」
「傾国みたいな話ですね」
「ええ、まさにそのような状態でした。今は落ち着きましたが、まだ水面下では彼を巡って色々な動きがあるようです」

そう言って、常磐は困ったような表情を浮かべた。彼もそれなりに大変な思いをしてきたらしい。

和葉にそんな大それた経緯があったとは驚きだが、また遥都は片思いをしていることになる。
遥都にとって、失恋したと言って泣くほど好きだった相手が、再び近くに戻って来たのだ。和葉にとらわれてしまうのも、当然の話なのだろう。
ライバルは多いようだし、幼なじみとして応援しなければならないのかもしれない。

「遥都のためだもんな……」

拓海は小さく呟いた。
散っていく桜の花びらが、とても悲しく見えた。

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