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安東のことを思い出すと、自然と伊吹の表情は強ばる。

(よっぽど僕は、安東君に秀吾君を取られるのが嫌なんだろうな)

伊吹自身が、心の底から拒絶反応を起こしたのかもしれない。それこそ、気を失ってしまうくらいに。

そんなことを考えていると、秀吾の手が伸び、伊吹の髪をふわりと撫でた。

「秀吾君……?」

伊吹の顔は、たちまち真っ赤に染まる。
東屋にいた時とは全く違って、何だか優しい雰囲気のように感じるし、目の前にいる秀吾はやっぱり格好良くて、伊吹はぽうっとしながら見とれてしまった。

(格好いい……、って見とれてる場合じゃなくて!)

「僕は大丈夫だよ。僕は華京院だから、滅多に虐められないって言ってた」

伊吹を撫でた秀吾の手がすっと引かれてしまった。
ちょっと淋しかったが、それでも何かを考えるようにじっと伊吹を見てくる。伊吹は恥ずかし過ぎて目を逸らしたかったが、必死に耐えて秀吾を見つめ返した。

「秀吾君は僕と同室なんだよ。だから、部屋に帰って来て。秀吾君は強いけど、でも、一人でも秀吾君の味方がいた方がいいと思うんだ」
「華京院が味方になってくれるんだ?」
「うん」
「……わかった、部屋に戻るよ。そこまで俺のことを考えてくれていたんだな」
「お節介かもしれないけど」
「そんなことない」

即答した秀吾が、伊吹の両肩を引き寄せた。

「わっ!」

目の前に秀吾が迫り、伊吹は驚きと羞恥でカチカチに固まる。

「俺も絶対に君を守る」
「しっ、しっ、秀吾君……!」

凛々しい表情の秀吾に格好いい台詞を言われて、伊吹は顔を真っ赤にさせながらドキドキと胸を高鳴らせた。

「さっきは酷い態度を取って悪かった。君を安東に近付けたくなかったんだ。」
「ううん。ありがとう、秀吾君」
「一生懸命な君を見ていて、改めて思ったよ。こんなことを言うのは本当に今更だ。でも、君が何と思おうが決めたんだ。君が華京院」
「えっ、えぇっ!?」

(い、今華京院て……! そうだよ、今の僕は華京院だった!!!)

君を絶対に守るとか、君が何と思おうがとか、まるで秀吾は華京院伊吹に恋しているようではないか。

(ぼっ、僕と言うものがありながら、浮気者ー! やっぱり前の僕より、顔がいい華京院がいいの? それとも、片村伊吹のことなんか好きじゃなくなったの? もしかして、その両方なの!?)

火照っていた体が急速に冷めて、伊吹の両目からはボロボロと涙が溢れだした。

「わ、泣くな。俺が悪かったから」
「うぅっ、秀吾君のバカァ!」

伊吹は脱兎の如くベッドから降りる。

「待って!」
「さ、触らないでっ!!」

引き止めようとする秀吾をがむしゃらに振り切って、伊吹は保健室から飛び出した。

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