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「だ、だめー!! 秀吾君は安東君に頼らなくても、生徒会長になれるんだからっ」

伊吹が珍しく大きな声を張り上げた。が、それ以上に大きな声が返ってくる。

「うるさい! 秀吾には俺がついてないとダメなんだぞ!!」
「そんなことないよ。それに、秀吾君には恋人がいるんだから、安東君は恋人にはなれないよ」
「なに言ってるんだ! 秀吾に恋人なんていない。恋人になるのは俺なんだからな! お前っ、俺がうらやましいからって嘘吐くなよ!!」

安東が怒鳴り返しながら伊吹に向かってきた。
安東が纏う怒りのオーラに気圧されたのか、伊吹の体が固まって動かなくなってしまった。

安東が右手を振り上げている。このままだと殴られそうなのに、逃げようとしても伊吹の体は動かない。
自分でも顔が青ざめるのがわかり、体も震えだした。
安東が恐ろしくて堪らないのだ。

「やめろっ!」

ガタガタと震えていた伊吹の目の前に、秀吾の背中が立ちはだかった。

(しゅうご、くん……)

そのまま、伊吹の意識はプツリと途絶えた。




◇◇◇




『ほら伊吹、これも食べなよ』

秀吾が伊吹に差し出したのは、クリーミーぷりん。購買の人気商品である。

『え、でも……』
『またデブって言われたの気にしてるのか?』
『うん……』

今日も伊吹はクラスメイトにからかわれた。
このままだと、秀吾に愛想尽かされてしまうかもしれないと、最近思い悩むようになっていた。

『俺は気にしないよ』
『うひゃっ!』

秀吾の手がブレザーから入り込んで、伊吹の体をはい回る。大きくて温かな手だ。

『むしろ気持ちいいから好き』
『す、すすすすすすき……!!』

密着する秀吾に優しく囁かれて、伊吹は意識を失いかけた。

『……僕も秀吾君が好き』


「ぅぐっ!?」

急に息苦しくなって目が覚めた。
すると、何故か目の前に秀吾の顔があり、その秀吾が伊吹の鼻を摘んでいた。

さっきの夢の続きだろうか。
嬉しいやら息苦しいやら。伊吹はパニックになって、顔を赤くさせながら口をパクパクしていると、秀吾は何やら難しい顔をしながら、伊吹の鼻から手を離した。

「大丈夫か?」
「うん」

そこでようやく、自分が保健室のベッドで横になっていた事に気付いた。
体を起こし、続いて安東の事も思い出し、伊吹は青ざめる。

そんな時、大きな手が伊吹の背中を撫でてくる。
やっぱり夢の続きなのかもしれない。
意識を失った伊吹をここまで運んでくれたのは、秀吾なのだろうか。
そう尋ねるために伊吹が口を開くよりも早く、秀吾が重大発言をした。

「安東に目を付けられた。このままじゃ済まないだろうな」

ピクリと伊吹の体が揺れる。
急に安東の事をこんなに恐ろしく感じるようになってしまったのは、どうしてなのだろう。

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