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「俺が服を脱いで、皆さんに何のメリットが……」

拓海が呆気にとられながら言うと、すぐ後ろから壁を叩くような大きな音がした。
突然のことに驚いて振り返ると、そこには何故か宇佐見が立っていた。

「このムッツリネクラ集団が」

宇佐見はそう言いながら、近くにいた黒頭巾の椅子を蹴りあげる。

「ヒィッ!!」
「てめぇらみてーのはアニメ見ながらシコってりゃいいんだよ。調子にのんなクソがっ!」

無口だと思っていたが、意外に口が悪かった宇佐見は、机や椅子を乱暴に蹴散らしながら歩く。
真っ黒集団は、蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑っていた。

「あ、悪魔が降臨した……!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ちょうしにのりましたぁぁぁ」
「たっ、助けてぇ」
「うるせぇ腰抜け共が! さっさと散れっ」
「ヒィィッ!!」

真っ黒集団が我先にとドアから逃げて行くのを、拓海は呆然としなが見送った。

「おい」
「は、はい」

衝撃が納まらないまま宇佐見を見上げる。彼はそんな拓海を見て、軽く溜息をついた。

「お前、一人でこんな場所にノコノコ入って行くな」
「すみません……」
「護衛は?」
「えっと、どこかに」
「誰もいなかったぞ」
「えっ?」

急いで廊下に出て辺りを見回すが、確かに人の気配はない。それに、誰かがいたらさっきの騒ぎで出てきてもおかしくはなかったし、本当に誰もいないのだろう。
宇佐見を振り返って見ると、彼は軽く肩を竦めただけだった。

途中で置いてきてしまっていたら申し訳ない。探そうと拓海が考えていた時、宇佐見が口を開いた。

「護衛を探しに行っても無駄だぞ。取り敢えず生徒会室まで帰れ」
「はい、わかりました」
「ほら行くぞ。面倒くせぇから俺が送る」
「えっ、でも……」
「またさっきみたいのに絡まれたいのか?」

と、凄まれて、拓海は宇佐見に生徒会室まで送ってもらうことを了承した。



拓海は隣を歩く宇佐見を見上げた。黙っていればストイックな雰囲気で、短い黒髪にターコイズのピアスが似合っている。

「……あの、さっきは助けて下さってありがとうございました」
「あそこは変態の巣窟だから近づくな」
「はい。どうして宇佐見さんはあそこにいたんですか?」
「俺が変態だからあそこにいたんじゃねぇ! ついでにロリコンでもねえからなっ、ガキに興味はないんだ」
「は、はぁ」

見た目に反して、宇佐見は暴力的で口は悪かった。
けれど、結果的に拓海は助けられたようなものだし、こうしてわざわざ送ってくれるのだから、面倒見はいいのかもしれない。
結局、真っ黒集団から書類は貰えなかったけれど。

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