17

拓海が連れられた温室の奥にはちょっとしたスペースがあり、ガーデンテーブルを囲んだイスに、二人の生徒が寛いだ様子で座っていた。

黒髪と焦茶の、二人とも落ち着いた髪色だったが、耳にはピアスが光っている。そして、すこぶる顔の造形が整っているようだった。
落ち着いた雰囲気で、手にしている高そうなティーカップが良く似合う。

黒髪の生徒がティーカップを傾けている時に、不意に拓海と視線が合った。

「ぶっ……!」

その瞬間、黒髪の生徒が噴き出した。
向かいにいた焦茶の生徒が、物凄い反射神経で飛び退く。

「おまっ、汚ねえな!」
「宇佐見ぃ、大丈夫?」

拓海を案内した生徒が声をかけると、こちらを見た焦茶の生徒が、拓海を見た瞬間に目を見張った。

何故、一々ここにいる人達は拓海を見て驚くのだろうか。補佐になったばかりの自分が、ここに来る事がおかしいのだろうかと、拓海は内心で首を捻る。

「秋庭、おまっ、どうしたんだよソレ!?」
「うーん、生徒会のお仕事だって。とりあえず、宇佐見に知らせようと思って」

秋庭と呼ばれた生徒が、使用届けを二人に見せた。
先ほど噴いた黒髪の生徒が宇佐見というらしい。拓海に再び視線を向けてから、書類に手を伸ばした。

「どうする、これ」
「どうするもこうするも、なんなんだよ」
「……」

三人の視線が一斉に拓海に集まった。
反射的に後退りたくなったが、そんな拓海にお構い無しに、焦茶の生徒が口を開く。

「あのさー、こんなん今まで書いたことないんだけど。何でまた急に?」
「えっ、そうなんですか?」
「うちらは園芸部じゃないけど、花の手入れをする代わりにここを使わせてもらってるからさ。園芸部の顧問の許可もあるしねえ」
「何かの手違いじゃないのかな……」

焦茶の生徒に続いて、秋庭も思案するように言った。
それなら、桧山が誤ってリストに入れてしまったのだろうか。だが、確認しようにも桧山は会議中である。

「書く」
「えっ、宇佐見?」
「必要ならば仕方ない。いらないなら処分すればいい」

そう言いながら、宇佐見が書類に書き込み始めると、秋庭達は顔を見合わせた。

宇佐見は、書き上げた書類を無言で差し出す。いい人だなぁと感謝しながら、拓海はそれを受け取った。
近くで見ると、宇佐見はやはり整った顔立ちをしていたが、無表情なので威圧感を半端なく感じる。

「ありがとうございました。使用届けについては、確認を取ってまた連絡します」
「え、また来るの!?」

秋庭が驚いたように声を上げる。
無くても良かった書類だったかもしれないので、申し訳ない気持ちで言ったのだが、逆に迷惑だったらしい。

「いい、必要ない」
「わかりました」

宇佐見にすげなく言われて、意気消沈しながら拓海は頷いた。

[ 17/24 ]


[mokuji]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -